体系 |
禁反言 |
用語 |
禁反言による信義則のケーススタディ3(商標の場合)/BeaR事件 |
意味 |
信義則とは、信義かつ忠実に行動するべき原則を言い、
禁反言の原則とは、一般に甲が乙に対して何らかの意思表示を行い、乙がその意思表示に応じて行動をとった場合に、後になって甲が前記意思表示と矛盾する行動をとることができないという原則を言います。
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内容 |
@禁反言による信義則の意義
知的財産の分野では禁反言の原則は、特許出願や商標出願の審査の経過で出願人がした主張が審査官に受け入れられて権利になったときには、その主張と矛盾する権利の行使は許されないという包袋禁反言の原則として現れます。これは、広義の信義誠実の原則の一つの形と考えられます。注意しなければならないことは、こうした考え方は、その主張をした特許出願人や商標出願人から他人へ権利が譲渡された場合にも成り立つことです。ここでは判例中に禁反言や信義則という用語は使われていないものの、審査における出願人の主張が、権利の譲受人である商標権者の権利行使を縛ることになった事例を紹介します。
A禁反言による信義則の事例の内容
事件の表示:平成12年(ネ)第6252号
事件の種類:商標権差止請求事件・控訴審(請求棄却)
本願商標:BeaR
登録番号:第2667318号
問題の意思表示が行われた場面:商標出願の拒絶理由通知に対する意見書
意思表示の内容:「本件商標のアルファベット綴の態様が特異であり一見して熊等を意味する英単語を想起することが困難である」
事件の経緯:
(a)本件商標の出願人であった甲は、当該商標出願の審査で先登録の第745533号商標「GOLDBEAR」及び第1572840号商標(熊の図柄+「GOLD」+「BEAR」)に類似する旨の拒絶理由通知を受け、これに対する平成5年3月2日付け意見書の中で、「本件商標のアルファベット綴の態様が特異であり一見して熊等を意味する英単語を想起することが困難である」と主張し、これが受け入れられて平成6年5月に商標権を取得しました。
(b)甲は平成8年3月乙に当該商標権を譲渡しました。
(c)乙は、「Bear」・「BEAR」・「ベアー」等の文字を横書き又は縦書きした商標を使用していた丙を商標権の侵害で訴えました。
裁判所の判断:
(a)一般に「bear」という単語は、全部を大文字又は小文字のいずれかで綴るか、頭文字だけを大文字とするのが普通であって、冒頭の文字と末尾の文字とを大文字とすることはないから、これを「Bea」と「R」の組合せあるいは「B」と「R」の間に「ea」の文字を挟んだ造語ないし何らかの略称とみることも可能である。
(b)このように、本件商標「BeaR」は、そこから生じる称呼及び観念において多分に不確定なものを含んでおり、少なくとも、本件商標「BeaR」から、「ベア(ー)」の称呼及び「熊」の観念が確定的に生じるということはできない。
(c)本件商標の指定商品の分野において、「bear(熊、ベアー)」に関連づけられる観念及び称呼を生じさせる多数の商標が独立の商標として登録され、実際に使用されていると認められることは前示のとおりである。このような実情に照らすと、本件商標の指定商品である被服等の市場においては、単なる「ベアー」の称呼や「ベアー(熊)」の観念のみによっては自他商品を識別することが困難であり、取引者・需要者は、むしろ「bear」等に付加された語句や図形等の差異によって種々の形態の「bear」商標を識別していると考えることが経験則に合致する。
(d)本件商標の出願人が拒絶理由通知に対して提出した前記意見書における主張は、「bear」等を含む商標が単にベアーの称呼及び熊の観念によって識別されるものではないという一般的な取引事情についての出願人の認識を表明したものと解されるのであって、本件商標についてみれば、同意見書でも強調されているように、本件商標「BeaR」の特異な綴り、特に末尾の「R」が大文字で強調されているという点が、本件商標を一般的な「bear」(熊)から区別する部分と解される。
(e)言い換えれば、本件商標は、他の「bear」(熊)に関連づけられる多数の登録商標群及び現に使用されている商標群の中にあって、「最後のRが大文字のベアー」という特異なものとして看取され、観念され、そのようなものとしての識別力を発揮するものと解することが相当である。(中略)
(f)検討した点を総合すると、本件商標の指定商品の取引分野において、本件商標を付した商品と控訴人標章を付した商品とが取引に置かれたときに、両商品の間でその出所についての誤認混同が生ずるおそれがあると認めることはできない。従って、控訴人標章は、本件商標に類似するものではないというべきである。
[コメント]
“BeaR”は熊を連想させないと主張して商標権を取得していながら、商標権を行使する場面で“BeaR”と“bear”とは称呼や概念紛らわしく類似であると主張する如きは、たとえ当該主張をした者と権利を行使する者とが同一人でなくても許されないというべきであります。従って商標権からの防御手段として禁反言の原則を用いることができます。
こうした例とは異なり、商標出願人が審査の段階で禁反言の原則に言及して保護範囲を狭めることを明言して、権利化を図った事例もあります。
→禁反言の原則の用い方(出願人の側による)
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留意点 |
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