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@商標法第4条第1項第6号の意義
(a)国等を表示する著名な標章と同一・類似のものを登録対象から除外する理由は、「ここに掲げる標章を一私人に独占させることは、本号に掲げるものの権威を尊重することや国際信義の上から好ましくない。」というものです。
(b)商標法第4条第1項第8号のような人格権保護の規定ではなく、公益保護の規定であるので、たとえ商標出願人が本号に掲げる者の承諾を得ていたとしても、本号の適用を免れることはできません。
(c)国等を表示する標章であっても著名の程度に至っていないものは、それを一私人が独占しても、公益(国民全体の利益)に反するとまではいえないので、本号には該当しません。ここでは「著名」の意義に関してケーススタディします。
A商標法第4条第1項第6号の内容
[事件の表示]平成24年(行ケ)第10125号
[事件の種類]審決取消請求事件(拒絶査定不服)・請求認容
[判決の言い渡し日]平成24年10月30日
[経緯]
商標出願人は、平成21年7月16日に、第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料、金属製建具、金属製建造物組立てセット」、第19類「セメント及びその製品、木材、石材、建築用ガラス」及び第21類「清掃用具及び洗濯用具」について、図形+「DAIWA」からなる商標を出願したところ、当該商標が宮崎県日南市の市章(日南市章という)に類似するから、商標法第4条第1項第6号に該当するとされたものです。
日南市章は、黒丸を囲む黒い丸の上下・左右から三角形状の突起を外側に突き出したものであり、商標出願の対象である商標は、これとほぼ同じ図形の下に当該図形よりやや小さい横書きの「DAIWA」を付したものです。
日南市章は、旧日南市及び複数の地方公共団体の合併に伴い、平成21年11月2日に告示されたものです。
争点は、日南市の市章が著名であるか否か、及び前記商標が市章に類似するか否かです。
[裁判所の判断]
(a)審決は、「公的な機関である地方自治体を表彰するために用いられる都道府県、市町村の章は、制定時に告示が行われるものであり、そして、告示は、広く一般に知らしめるものであることから、商標法第4条第1項第6号にいう「著名なもの」として扱うのが相当である」(2頁17行〜20行)として、日南市章の実際の著名性について認定することなく、「著名なもの」と認めた。
・しかしながら、商標法4条1項6号は、「国若しくは地方公共団体……を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」と規定しているから、同号の適用を受ける標章は「著名なもの」に限られると解すべきであり(告示された国又は地方公共団体を表示する標章が当然に著名なものとなるわけではない。)、著名であるか否かは事実の問題であるから、告示されたことのみを理由として「著名なもの」とした審決の判断手法は、是認することができない。(中略)
・日南市章が、日南市の公共施設やホームページ等に表示されたからといって、本願商標の指定商品の取引者、需要者が一般に目にするとは認められない。また、イベント等を報じる新聞記事の写真、テレビ放送等に写る日南市章は、背景として小さく写り込んでいるにすぎず、目立つものとは認められない。
・そして、日南市の観光や物産を紹介する書籍、ホームページも、本願商標の指定商品の取引者、需要者が一般に目にするとは認められない。
・被告は、本願商標の指定商品に含まれる商品「マンホール」の蓋は自治体の章が刻印されることが少なくなく、公共工事に用いられる建材を提供する事業者は県章や市章等に相当程度注意を払っているという取引の実情が存在すると主張する。しかしながら、マンホールの蓋を扱う取引者、需要者の数は明らかではなく、本願商標の指定商品の取引者、需要者のうちのどの程度を占めるのかは不明というほかない。
・したがって、被告の主張する上記取引の実情を考慮しても、上記認定の事実から、審決時に、日南市章が本願商標の指定商品「建築用又は構築用の金属製専用材料、金属製建具、金属製建造物組立てセット」、「セメント及びその製品、木材、石材、建築用ガラス」及び「清掃用具及び洗濯用具」に係る一商圏以上の範囲の取引者、需要者に広く認識されていたと認めることは、困難である。
(b)本願商標の図形部分は、本願商標の大きな部分を占めるものではあるが、「日」という漢字の古代書体に由来するありふれた図形であって、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとまでは認められない。
他方、本願商標の「DAIWA」の文字部分は、図形部分と比して1/5程の大きさにすぎないが、同部分から「ダイワ」の称呼が生じることは明らかである。また、我が国には、「ダイワ」、「大和」を冠した企業名が多数存在する(裁判所に顕著な事実)から、取引者、需要者は、「DAIWA」の文字部分を企業名に関する表示として認識し、同部分からそのような企業名としての観念を生じるものと認められる。したがって、本願商標の「DAIWA」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めることはできない。
以上によれば、前掲最高裁判決の判断基準に照らして、本願商標の構成から図形部分を抽出し、この部分だけを日南市章と比較して商標そのものの類否を判断することは、許されないというべきである。
そして、本願商標と日南市章を全体として対比すると、外観において本願商標の図形部分と日南市章は類似するものの、本願商標が「ダイワ」の称呼を生じ、「ダイワ」ないし「大和」の企業名としての観念を生じるのに対し、日南市章は、特定の称呼、観念を生じるものとは認められないから、全体として類似するとはいえない。
[コメント]
市章の著名性に関しては、告示という形式に拘るのではなく、“事実の問題”として実体的に判断するべきであり、具体的には指定商品の取引者・需要者にとって著名か否かで判断するべきとした点が着目されます。市のホームページのうち指定商品の取引と関係ない場面で市章を小さく紹介しても、取引者・需要者の目に留まりにくいので、著名とは岩ません。
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