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@先願主義を採用している趣旨
商標権は、商品又は役務(以下「商品等」という)の出所混同の排除を目的とする独占排他権です。この独占排他性故に商標権は、特にその専用権の部分は、重複して設定することができません。
商標権の重複設定を回避する手段として、先使用主義と先願主義とがあります。
先使用主義は、最初に使用を開始した者を保護する主義だから、使用事実に基づいて商標権を付与する使用主義に結びつき易く、他方、先願主義は、最初に使用の意思表示をした者を保護する主義だから、使用の意思に基づいて商標権を付与する登録主義に結びつき易いという特性を有します。
そして我国の商標法は、権利の安定性を重視して登録主義を導入しているため、先願主義を採用しています。
A先願主義の適用基準
(A)時期的基準
(a)我国の先願主義は、商標出願の出願“日”を以て適用されます。
(b)出願日とは、原則として願書に特許庁を提出した日を言いますが、一定の例外があります。 →先願主義の時期的適用基準
(B)主体的基準
異なる出願人にのみ適用されます。
同一人であれば商品等の出所混同を生じないからです。
(C)客体的基準
(a)同一・類似の商品等に使用される同一・類似の商標であることです。
(b)すなわち先願主義の適用の態様には、次の態様があります。
(イ)同一の商品等に使用される同一の商標、
(ロ)類似の商品等に使用される同一の商標、
(ハ)同一の商品等に使用される類似の商標
(ホ)類似の商品等に使用される類似の商標
(c)ここで(イ)は商標権の効力のうちのいわゆる専用権の範囲、(ロ)・(ハ)・(ニ)はいわゆる禁止権の範囲をそれぞれカバーしています。商標権者が独占排他的に使用できる専用権の範囲に他人の立ち入りを禁止するバッファーゾーン(緩衝地帯)を設けて、出所混同を防止しているためです。
B先願主義の適用範囲
先願主義は、商標出願と防衛標章登録出願との間では適用されません。
防護標章登録出願の基礎となった登録商標と商標出願に係る商標との間で出所混同が生ずるのであれば、商標法第4条第1項第15号で商標出願を拒絶すればよいからです。、
C先願主義の適用
(a)異日出願の場合には、最先の商標出願のみが商標登録を受け得る、同日出願の場合にはくじにより定めた者のもが商標登録出願を受けることができます。
(b)先願主義が適用されると、後願者、またはくじが外れた商標出願人は拒絶査定を受けますが、拒絶査定された出願には先願がありません。後日に同じ内容の出願がなされ、(その時点で競合する出願人又は商標権者がいないのに)、後願を理由として拒絶されるのは不都合だからです。
→先願主義による競合出願の取り扱い
(他法との関係)
商標出願の対象は彼我の商品等を識別させるためのマークであるのに対して、特許出願の対象は自然法則を利用した技術的思想の創作であり、創作物としての新規性・進歩性を客観的要件として登録されるものです。従って特許出願の先願主義は、商標出願の先願主義と比べると、
同一の特許出願人でも適用が“ある”、
設定登録された特許出願に基づく適用が“ある”
同日出願の協議不成立の場合、くじにより権利者となるものを選ぶのではなく、双方の特許出願が拒絶となる、
などの違いがあります。
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