今岡憲特許事務所マーク

トップボタン
 商標に関する専門用語
  

 No:  156   

著名(4条1項8号)/商標出願/不登録事由

 
体系 商標制度に関する事項
用語

著名の意義(商標法第4条第1項第8号)

意味  商標法第4条第1項第8号の他人の氏名・名称の著名な略称等の“著名”とは、

 問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とするのではなく、

 その略称等が他人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否か、を基準として判断するべきものです。



内容 @商標法第4条第1項第8号の他人の氏名・名称の著名な略称等の“著名”の意義

 商標法第4条第1項第8号は、他人の人格権保護のため、当該他人の氏名・名称、著名な雅号・芸名・筆名、これらの著名な略称を含む商標を、商標登録の対象から除外しています。

 こうした商標の構成から、その他人との関係性を世人が信じることにより、他人が不快な思いをすることを防止するためです。

 雅号・芸名・筆名、及び、氏名・名称等の略称に関して著名性を要求するのは、雅号等や氏名・名称等の略称は、比較的恣意的なものだからです。

 著名性に関しては、誰を基準として判断するのかも問題となります。

 例えば有名な野球選手のニックネームを野球用品を指定商品とする商標に使用した場合には、野球用品の需要者層と野球ファンの層と重なる部分が多いため、商標の構成から当該野球選手との関係を需要者が直感する可能性は高まります。しかし、野球と無関係の商品との関係では、野球選手との関係を需要者が直感する可能性は低くなるでしょう。

 しかしながら、そうした傾向があるとしても、商標法商標法第4条第1項第8号の“著名”を判断するに際して、指定商品・指定役務の需要者層のみを基準として判断すればよいというものではありません。

 商標法第4条第1項第8号は、商品・役務の出所混同の防止ではなく、他人の人格権の保護を目的としており、指定商品・指定役務の需要者層以外の人々から、当該商標と他人とが関係あると誤解されても構わないというものではないからです。

 そうした趣旨を判示した最高裁の判決を紹介します。


A商標法第4条第1項第8号の著名性に関する事例の内容

[事件の表示]平成16年(行ヒ)第343号

[事件の内容]登録無効審決取消訴訟(請求棄却→審決維持→原判決破棄)

[審決日判決の言い渡し日]平成17年 7月22日

[商標]国際自由学園

[指定商品]第41類 「技芸・スポーツ又は知識の教授、研究用教材に関する情報の提供及びその仲介、セミナーの企画・運営又は開催」

[事件の経緯]

(A)被上告人は、「国際自由学園」の文字を横書きして成る登録第4153893号の登録商標の商標権者であり、また名称を「国際自由学園」とするビジネス専修学校の経営主体である、神戸市に主たる事務所を置く学校法人である。

 同学校は、昭和61年に技能教育のための施設として文部大臣の指定を受け、本校を兵庫県芦屋市に置き、開校時から平成4年までは東京都内の、それ以降は北海道内の通信制高等学校の技能連携校となって、高等学校の通信制課程に在籍する生徒に対してコンピュータ、経営、貿易関係等の授業を実施するなどしている。

(B)上告人は、大正10年、東京府目白(現在の東京都豊島区西池袋)において、女子のための中等教育機関として設立され、その後、初等部を設立し、現在の東京都東久留米市に移転し、男子部、幼児生活団、最高学部が開設されるなどして一貫教育校となり、現在に至っている。上告人は、その名称である「学校法人自由学園」の略称「自由学園」(以下「上告人略称」という。)を、大正10年以来、教育(知識の教授)及びこれに関連する役務に使用している。

[審決の理由]

 上告人は、設立のころから本件商標の商標登録出願時に至るまで、各種の書籍、新聞、雑誌、テレビ等で度々取り上げられており、これらの記事等において、上告人を示す名称として上告人略称が用いられている。

 ただし、これらの記事等の多くは、上告人が、大正時代の日本を代表する先駆的な女性思想家である羽仁もと子及びその夫の吉一により、キリスト教精神、自由主義教育思想に基づく理想の教育を実現するために設立されたものであるという歴史的経緯や、上告人の独自の教育理念、教育内容に関するものであり、また、主として教育関係者等の知識人を対象とするものであって、学生、生徒、学校入学を志望する子女及びその者らの父母(以下「学生等」という。)に向けられたものではない。

 上告人略称は、上告人の設立の歴史的経緯、教育の独創性により、教育関係者を始めとする知識人の間ではよく知られているということができる。しかし、学生等との関係では、本件商標の商標登録出願の当時、東京都内及びその近郊において一定の知名度を有していたにすぎず、広範な地域において周知性を獲得するに至っていたと認めることはできない。

zu

[原判決の理由]

 上告人略称「自由学園」が、本件商標の指定役務の需要者である学生等との関係では、周知性を獲得するに至っていたとは認められないこと、本件商標「国際自由学園」が学校の名称を表示する一体不可分の標章として称呼、観念されるものであることを考慮すると、本件商標に接する学生等が、本件商標中の「自由学園」に注意を引かれ、本件商標が上告人の一定の知名度を有する略称を含む商標であると認識するとは認めることができない。

 したがって、本件商標登録は、8号の規定に違反するものではない。

「最高裁判所の判断」

(A)本件商標「国際自由学園」が上告人略称「自由学園」を含む商標であること、上告人が被上告人に承諾を与えていないことは明らかであるから、上告人略称が上告人の名称の「著名な略称」といえるならば、本件商標は、8号所定の商標に当たるものとして、商標登録を受けることができないこととなる。

(B)商標法4条1項は、商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが、需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号、15号等の規定とは別に、8号の規定が定められていることからみると、8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。

(C)すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても、一般に氏名、名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称と同様に保護に値すると考えられる。

 そうすると、人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても、常に、問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる。

(C)本件においては、前記事実関係によれば、上告人は、上告人略称を教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用し続け、その間、書籍、新聞等で度々取り上げられており、上告人略称は、教育関係者を始めとする知識人の間で、よく知られているというのである。これによれば、上告人略称は、上告人を指し示すものとして一般に受け入れられていたと解する余地もあるということができる。そうであるとすれば、上告人略称が本件商標の指定役務の需要者である学生等の間で広く認識されていないことを主たる理由として本件商標登録が8号の規定に違反するものではないとした原審の判断には、8号の規定の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。



留意点

次ページ

※ 不明な点、分かりづらい点がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。


 

商標に関する専門用語一覧へ戻る




今岡憲特許事務所 : 〒164-0003 東京都中野区東中野3-1-4 タカトウビル 2F
TEL:03-3369-0190 FAX:03-3369-0191 

お問い合わせ

営業時間:平日9:00〜17:20
今岡憲特許事務所TOPページ |  はじめに |  特許について |  判例紹介 |  事務所概要 | 減免制度 |  リンク |  無料相談  

Copyright (c) 2014 今岡特許事務所 All Rights Reserved.