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 商標に関する専門用語
  

 No:  159   

4条1項8号CS3/商標出願/不登録事由

 
体系 商標制度に関する事項
用語

商標法第4条第1項第8号のケーススタディ3(名称等の著名な略称)

意味  商標法第4条第1項第8号は、他人の肖像・氏名等を含む商標について当該他人の承諾なく商標登録を受けることができない旨を定めています。



内容 @商標法第4条第1項第8号の規定の意義

(a)商標法第4条第1項第8号は、他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号・芸名・筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標を商標登録の対象から除外する規定です。

 この規定の趣旨としては、古くは出所混同説が唱えられた時期もありますが、現在では、人格権保護説が主流です。

 このレポートでは、人格権保護の見地から、他人の名称の略称がどのように解釈されるのかを紹介します。

A商標法第4条第1項第8号が適用された事例の内容

[事件の表示]昭和53第(行ケ)第133号

[事件の内容]無効審決取消訴訟(棄却→取消)

[審決日判決の言い渡し日]昭和53年4月26日

[商標]SONYAN

[指定商品]旧第一六類「織物、編物、フエルトその他の布地」

[結論]原審決(請求棄却)を取り消す。

[事件の経緯]

@被告らは、ゴシツク体で「SONYAN」の欧文字を横書きにしてなり、商標法施行令第一条別表第一六類「織物、編物、フエルトその他の布地」を指定商品とする登録第七八三一〇九号商標(昭和三五年四月二一日登録出願、昭和四三年六月一〇日登録。以下、「本件商標」という。)の商標権者です。

A原告は、昭和四三年一〇月二九日本件商標の登録無効の審判を請求し、特許庁昭和四三年審判第八〇〇七号事件として審理されたが、昭和五二年六月一日右審判請求は成り立たない旨の審決があり、その審決謄本は同年六月二五日原告に送達されました。

B無効理由として、商標法第4条第1項第8号違反、及び同項第15号違反が主張されました。

 審判官は、8号及び15号のどちらにも該当しないと判断しました。

 これに対して原告は、それぞれ取消事由を主張し、どちらの事由も理由ありと裁判官によって判断されました。

 以下、商標法第4条第1項第8号の部分を紹介します。

[審決理由]

@本件商標を構成する「SONY−AN」の各文字は、いずれも同一の書体、大きさで、等間隔に一連に表示されており、これを、例えば、「SONY」と「AN」とに分離して観察しなければならない格別の事情が存するとは認められないから、本件商標は、これを構成する各文字が一体のものとして結合された造語であるとみるのが相当である。

Aしたがって、請求人(本訴原告)の主張する「ソニー」又は「SONY」がソニー株式会社の名称の著名な略称として認識されているとしも、これと一致した商標とは認められない「SONYAN」の文字よりなる本件商標は、その構成上、ソニー株式会社の著名な略称を含む商標ということはできない。

[取消理由]

@本件商標は、原告の著名な略称「SONY」を含む商標であり、商標法第四条第一項第八号の規定に該当することは明らかである。

A原告は、昭和三三年一日一日、その商号を東京通信工業株式会社から現在のソニー株式会社に変更したものであるが、旧商号の当時から、その業務に係る商品であるトランジスターラジオ、テレビ、テープレコーダー等の電気通信機械器具について、「SONY」及び「ソニー」なる商標を使用していた。

Bそして、右の「SONY」及び「ソニー」の標章は、本件商標の登録出願当時、すでに、長年にわたる継続使用と商品の優秀さから、国内はもとより世界各国において、周知著名な商標となっていたばかりでなく、原告の商号の略称としてもきわめて著名となっており、採択の根源が造語であるとしても、原告自身及びその商品を明示するものとして、世人に強い印象を与えるものとなっていた。

Cそのため、本件商標に接する者は、「SONYAN」の表示から、原告の著名な商標及び略称として知っている「SONY」の文字を抽出して観念し、末尾の二文字「AN」は、一般に英語において「……の」という意味を表わす接尾語として知られている文字と同一であると考え、本件商標「SONYAN」をもって、「SONY+AN」であると認識し、「SONYの」又は「ソニーの」という意味を表わすものと理解するであろうことは、わが国における英語の知識の普及度に照し明らかである。

zu

[裁判所の判断]

@〈証拠〉を総合すると、(中略)「SONY」及び「ソニー」の標章は、国内的にも国際的にもきわめて著名となり、本件商標が登録出願された昭和三五年四月二一日当時すでに、「SONY」の標章は、一般世人の間において、原告が製造販売する商品の商標としてだけでなく、原告の略称としても広く認識され、これに接する者は直ちに原告を想起するまでに周知著名となっていたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

A一方、本件商標「SONYAN」は、本件審決の認定するとおり、これを構成する各文字が同一の書体、大きさで、一連に表示されておおり、各文字の書体に格別の特異性はないものであるところ、六文字のうち、語頭からの四文字は、さきに認定した原告の著名な略称である顕著な造語表示「SONY」と一致しているのに対し、これに付随する語尾の二文字「AN」は、英語においては、「……の」「……の性質の」「……人」の意の語を形成する場合にしばしば用いられる形容詞及び名詞の接尾辞であって、わが国における英語の知識の普及度に徴すると「AN」について右の語意を直感するにとどまる者の多いことも明らかである。

Bしてみると、本件商標は、一般世人がこれに接した場合、「SONYAN」の構成から、原告の著名な略称である「SONY」を容易に想起看取し、その主要部を「SO−NY」として理解する蓋然性がきわめて大きい構成のものであるといわざるをえない。

C右のとおりである以上、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標というべきものである。したがって、被告らにおいて特段の主張、立証をしない本件においては、本件商標は、商標法第四条第一項第八号の規定に該当し、その登録は無効とされるべきものであるから、本件審決は、原告主張のその余の取消事由につき判断するまでもなく、違法として取消を免れない。

[コメント]

@本事例では、本件商標「SONYAN」が他人の商標「SONY」を含むかどうかで審判官と裁判官との見解が分かれた事例です。

 接尾子(-an)は、「…の(of)」、「…の性質の(of the nature of)」のような意味をもつ造語要素であり、例えば“America”に対して“American”を例に挙げることができます。

Aこれに対して、“American”と“America”とは別個の単語であり、前者の構成に後者は含まれないと考えるのは言語学的な意味では間違いではないでしょう。

 それと同じ理屈で商標「SONYAN」は他人の名称の略称である「SONY」を含まないと主張することは可能であると考えます。

 また「SONYAN」は、造語的商標なので、その意味が需要者にどれほど伝わるかが疑問であり、“American”及び“America”の例に倣うのはおかしいという意見もあるでしょう。

Bしかしながら、接尾子(-an)が付く外来語は多数存在することや(例えばイタリアンなど)、「SONY」が著名であることを考慮すると、商標「SONYAN」から「SONY」を直感する需要者は少なくないと考えます。

 商標法第4条第1項第8号の趣旨は人格権の保護にありますので、商標「SONYAN」が「SONY」を含むと解釈する方がより規定の趣旨に沿うものと考えます。



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