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@商標法第4条第3項の趣旨
(a)一般に知的財産の分野(特許・実用新案・意匠・商標)では、出願対象の登録要件の判断時期の基準として、出願時主義と登録(査定)時主義とがあります。
旧法(大正10年法)では、商標法がこのどちらの主義を採用しているのかが必ずしも明確ではありませんでしたが、現行法(昭和37年法)において、登録時主義が採用されるとともに、一部の登録要件において本項において登録時主義を緩和するという扱いがとられています。
(b)工業所有権逐条解説(いわゆる青本)は、本項の趣旨に関して次のように説明しています。
“3項は、出願に係る商標が1項各号に該当するかどうかの判断の時点は査定時であることを前提として、特に1項8号、10号、15号、17号、19号についてだけは査定時にこれらの規定に該当していても、商標登録出願時にこれらの規定に該当していなければ良いという趣旨を表している。上記各号についてこのような救済規定を設けたのは、これら各号の場合には商標出願時に該当しないのに出願後にこれらの規定に該当するようになったものまで不登録にすることは酷に失するという理由による。”
(c)知的財産権の法律では、法律全体として登録(査定)時主義を原則としつつ、一部の規定に関して例外的に出願時主義を採用する場合があります。
例えば特許出願の新規性・進歩性の要件では“特許出願前”という文言を入れることにより、特許出願時が基準であることを明確にしています(特許法第29条。
商標法第4条第3項は、これらの条文とは規定振りを異にしており、商標法第4条第1項第8号などに関して出願時主義を採用したものではありません。何故なら、出願時に前記第8号などに該当していたが、査定時には該当しなくなったという場合には、本項の適用を待つまでもなく、第8号などは適用されないからです。
すなわち、第8号などに関しても、登録時主義が原則であり、出願時に同号などに該当することになったケースに関して救済を認めたとものと理解されます。
A商標法第4条第3項の内容
(a)商標法第4条第3項の対象である条文は次の通りです。
・同条第8号…他人の肖像又は他人の氏名等を含む商標
・同条第10号…他人の業務に係る商品等を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれと類似する商標であって、その商品等又はこれらと類似する商品等について使用するもの
・同条第15号…他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標
・同条第17号…日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であつて、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの
・同条第19号…他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの
(b)商標法第4条第1項第8号に関しては、商標法第4条第3項は、第8号の本文に適用され、同号カッコ書き(その他人の承諾を得ているものは除く)には適用されないと解されています。
→商標法第4条第3項のケーススタディ1
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