体系 |
権利内容 |
用語 |
拘束力のケーススタディ |
意味 |
取消判決の拘束力とは、裁判所が行政庁による処分を取り消したときに、その取消判決は行政庁を拘束するという効力です。
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内容 |
@拘束力の意義
審決を取り消す旨の判決は、差し戻し事件を審理する審判官を拘束します(行政事件訴訟法第33条1項)。そしてこの拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものですから、審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないと解釈されます(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。
A事例の紹介
[事件番号]平成17年(行ケ)第10683号
[事件の種類]拒絶審決取消請求事件・棄却
[発明の名称]情報記憶カードおよびその処理方法
[請求の範囲]カード識別装置と無線で情報を授受することによって情報記憶カードを処理する方法であって、
前記情報記憶カードが有する固定情報を読み取る第1の工程と、
読み取られた前記固定情報が適正かどうかを判定する第2の工程と、
前記情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と、
読み出された前記情報を処理して、前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに、前記履歴情報と同一あるいは少なくとも所定の部分を抽出した情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程と
を有することを特徴とする情報記憶カードの処理方法。
[事件の経緯]
(a)第一次判決(先の取消判決)の判断
銀行カードを用いたATMによる自動取引処理において、口座残高は、銀行預金の取引の性質上、ATMが銀行カードのみに情報源を依存しこれから読み取ることはできず、銀行センター側のホストコンピュータが口座ファイルから読み取り、取引に関する処理を行った後、処理後の残高をATMに送信するものであることが明らかである。
そうすると、刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば、ICカードから『残額』を読み取り、出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。
したがって、審決が、『残高を読取り、出金後にそれを更新するとの記載はないものの、そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。』と推断したことは誤りである。
(b)差し戻し審決での判断の内容
本件審決は、刊行物1発明のICカードを用いたシステムについて、
@ICカードの残高を読み取り、処理をした後に、ICカードに残高を書き戻すか、
Aセンターの残高ファイルから残高を読み込み、処理をした後に、ICカードに残高を書き込むか、のいずれであるかであり、
特許出願時の技術常識を参酌すれば、そのうちの一方を選択することは当業者にとって容易と認められる。
[裁判所の判断(第二次判決)]
第1次判決は、前記のとおり、「刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば、ICカードから『残額』を読み取り、出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。」、「銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると認めることはできない。」と認定しており、刊行物1のICカードから「残高」を読み取ったり、「(真の)残高」をICカードに記載することはない旨の認定をしているということができるから、本件審決の上記認定は、@はもとより、Aも、第1次判決の認定に反するものといわざるを得ない。
したがって、本件審決における刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定は、第1次判決の上記認定と抵触し、同判決の拘束力に反するものであって、許されないものである。
[コメント]
進歩性の判断に関して一定の目的を達成するためには△△の方法と□□の方法としかなく、そのうちの一方を採用することは、特許出願時の技術常識を参酌すれば、当業者にとって容易であるというのは、特許庁がよく用いる判断手法です。しかしながら、同じ引用例の同じ箇所を引用して、進歩性の否定する論理を作り替えて同じ結論を出すのは、裁判所から見ると、議論の蒸し返しであり、拘束力に反することだったようです。
こうしたことを予期してか、特許庁もこの判断を主位的判断とし、これとは主引用例を差し替えて進歩性を否定する予備的判断を示しています(→予備的判断とは)。
しかしながら、何の判断も裁判所により退けられました。 →(特許出願の)拒絶査定の理由と異なる理由のケーススタディ1
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