体系 |
特許出願の審査 |
用語 |
(特許出願の)拒絶査定の理由と異なる理由のケーススタディ2 |
意味 |
特許出願の拒絶査定の理由と異なる理由とは、拒絶査定不服審判の審判官が発見したときに特許出願人に通知するべきとされている理由であって(特許法第159条第2項)、未だ特許出願人に通知されていない理由を言います。
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内容 |
@特許出願の拒絶査定の理由と異なる理由の意義
(a)特許法第159条第2項は、特許出願の流れの中で逐次発見され得る拒絶理由に対して、意見書を以て特許出願人が反論する機会を保証し、手続面での発明の保護を図る趣旨から、拒絶査定不服審判の審判官が原査定と異なる拒絶理由を発見したときには、これを特許出願人に対して通知し、再度の意見書を提出するべき旨を定めています。
(b)しかしながら、世の中には、同一の技術を開示する先行技術文献は幾つもあり、そして文献毎に開示の程度(例えば構成のみを記載しているのか、作用・効果まで記載しているのかなど)が異なっている可能性があります。
(c)特許出願人の立場としては、審査の段階で或る技術を開示する先行技術文献1が発見されたものの、開示の程度から見てなお反論の余地があり、特許出願の審査・拒絶査定不服審判の審理を通じて当該反論を試みていたところ、審決取消訴訟の段階で反論の余地がない、より完全な開示内容の別の先行技術文献2が特許庁により示されたとします。
特許出願人の側からすると、何故最初に先行技術文献2を示さなかったのか、当該文献が最初に示されれば特許請求の範囲を減縮するなどして、拒絶理由を解消できる可能性があったのにと言いたくもなります。
(d)しかしながら、最善の引用例を探し出すための特許庁の労力などを考慮すると、そこまでの期待をすることは正しくないというのが、司法の考え方です。そうした見解が示された事例を紹介します。
A事例の紹介
[事件番号]昭和48年(行ケ)第113号
[事件の種類]拒絶審決取消請求事件(棄却)
[発明の名称]不溶不融性の固体のメラミンーホルムアルデヒド縮合物の製法
[請求の範囲]分子比が一:一・五ないし一:六のメラミンとホルムアルデヒドとの水溶液を二〇ないし一〇〇℃の温度および6ないし0のPH値に保ち、そうして固体相を形成させその溶液から分離し、この分離した固体相を次に無機塩から実質的に遊離させ、こうして得た固化した不溶不融性製品を平均粒子の大きさが5μよりも小さく粉砕して一〇m2/gよりも大きな比表面積を持つ粉末とすることから成る・ゴムの強化剤に適当した微細に分散した不溶不融性の固体のメラミンーホルムアルデヒド縮合物の製法。
[特許出願に対する拒絶査定の内容]
「日本ゴム協会誌」昭和三二年一一月号(以下「引用例」という。)第八二七〜八三六頁には、
・メラミン―ホルムアルデヒドの初期縮合物や硬化物の微粉末をゴムに配合すること
が記載されて本件特許出願前に公知であり、
・メラミンとホルムアルデヒドを酸性条件下で反応させて硬化した樹脂を生成すること
も特許出願前周知である。
そして無機塩などの不純物を除去することは当業者が任意に行ないうることであるし、また、本願発明において固化樹脂製品の粒子寸法や、比表面積を限定したことに格別の意義も認められないので、本願発明は引用例の記載から当業者が容易に発明できたものと認められ、特許法第二九条第二項の規定(進歩性)によつて特許を受けることができない。
[審判請求人(特許出願人)の主張]
本願発明は新規な方法で特定の粒子寸法と比表面積を有する不溶不融性のメラミン―ホルムアルデヒド樹脂の微粉末を製造したものであり、また、これをゴムに配合した際に引用例に記載の硬化樹脂粉末を用いた場合に比して特にすぐれた効果を有するものであるから、引用例から容易に発明できた程度のものではない。
[裁判所の判断]
原告は、被告提出の乙第一号証(特公昭二九―五五四四号公報)が審判の段階までに引用されていれば、本願発明の明細書をその主張の要件を加入して訂正する機会があり、その訂正された発明は特許に値するから、審決に至る手続に審理不尽の違法がある旨主張する。
しかしながら、特許法上特許異議申立制度や無効審判制度が存在することからみても、特許出願の審査又は拒絶査定不服の審判において、審査官又は審判官による引用例の検索が必ずしも万全を期し難いことは特許法の予定しているところであり、特許出願に対し、これを拒絶するに足る引用例を索出し、これを特許出願人に通知した以上、さらにより適切な引用例の有無を調査する必要はなく、そのような調査をせず、より適切な引用例を出願人に通知しなかつたからといつて、その審査又は審判手続に審理不尽の違法があるとすることはできない。
また、審決理由によれば、本件においては、審査段階の拒絶査定の理由として、すでに「メラミンとホルムアルデヒドを酸性条件下で反応させて硬化した樹脂を生成することも本出願前周知であり」と説示されていたことが明らかであり、しかも、引用例にメラミンとホルムアルデヒドとの反応を酸性条件下で行なうと縮重合反応が促進されることが記載されていることは前認定のとおりであるから、昭和三九年の出願に係り未だ公告決定の謄本の送達前である本件特許出願については、原告が任意にその主張の要件を加入する等の補正をすることができ、またその機会は十分にあつたといわなければならない。
してみると、本件訴訟の段階で被告が周知例として引用例としてより適切とみられる乙第一号証を提出したことにより、審判手続に審理不尽の違法が生ずるいわれはなく、また、前記のとおり、本願発明は、審決の判断のとおり、乙第一号証の援用をまつまでもなく、これを特許すべきものでないから、被告の右主張は、到底採用することができない。
以上のとおりで、原告の審決取消事由の主張はいずれも失当であり、審決には、これを取り消すべき違法の点はないというべきであるから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
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留意点 |
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