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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1012   

利用発明の態様/特許出願/利用発明

 
体系 権利内容
用語

利用発明の態様

意味  利用発明の態様としては、単に技術思想として利用して利用としているもの(利用発明)と思想において利用していないが、実施の際には必然的に実施することになるもの(実施上の利用発明)とがあります。


内容 @利用発明の態様の意義

(a)思想上の利用発明とは、先行する特許出願・実用新案登録出願の内容をそっくり含むとともに新たな要件を追加してなるものです。

(b)実施上の利用とは、物の発明に対して、その物を製造方法の発明、或いは、その物を使用する方法の発明を言います。

A利用発明の態様の内容

(a)思想上の利用発明としては、先行する特許出願等の発明(先願発明という)をそっくり含む発明とする考え方と、先願発明の上位概念を利用する発明も該当するという考え方とがありますが、判例上は前者が妥当です。

(b)事例1

[事件の番号]昭和45年(ワ)第822号

[事件の種類]実用新案権侵害に基づく差止請求訴訟(請求棄却)

[考案の名称]洋服カバーを兼ねる包装袋

[請求の範囲]

 ビニール膜などの適当な薄膜を両側から折り返した正面に合せ目を形成しこの部分をホックで止め、上下両端を塞いで、その中央にそれぞれハンガーの挿込孔を形成した袋の上下いずれか一端の合せ目の側にハンガー挿込孔を同質材でポケットに形成したものを具有する洋服カバーを兼ねる包装袋。

[本件考案と係争物との相違]

{相違点1} 本件実用新案においては、洋服カバーの正面合せ目の止め具にホックを採用しているのに対して、イ号物件においては同所の止め具はチャックである。

 なお、ホックとチャックとは、本件実用新案の考案における使用目的から言つて同効であり、当業者が実施にあたり任意に選びうる均等手段と認めるのが相当である。
均等論とは

{相違点2}

 本件実用新案は、洋服カバーを2つ折りにしてハンガーの肩部を掩つているカバーの上に、更に袋を冠せて2重に掩う着想のもとに、カバーの一端の合せ目の側にハンガーの挿入孔を同質材でつくつた別体のポケットに形成したものを具有せしめる構成を採用した(∵携行に便利なため)のに対し、

 イ号物件においては、洋服カバー下方を全幅にわたり水平に切裁しその切目にチャックをつけ、これを開くときはチャックより下部はポケットの機能を果す構成になつており、これを携行の際洋服カバーを2つ折りにし、ハンガーの肩部を掩つているカバーの上に、チャックより下部を冠せて2重に掩はしめるためのものである。

[原告の主張]原告はイ号物件において、カバーの下部に全幅に亘り水平開口部を設けこれにチャックをつけて開閉自在にした構成は、本件実用新案における同質材のポケットをカバーの一端に具有せしめた技術と均等あるいはこれを改良したものである。

[被告の主張]両者の技術は具体的構成が全く異るから、たとえ作用効果において共通するところがあつても、均等あるいは侵害となるべき改良の技術とみるべきではない。

[裁判所の判断]

(a)イ号と全く同じ構成の洋服カバーにつき本体実用新案権の共有者の一人より昭和四二年六月二日実用新案登録出願をしたところ、昭和四五年一二月一五日出願公告になつている事実に鑑みると、本件実用新案出願時当業者の常識において、本件実用新案の願書による開示からイ号物件にみられるチャックをつけた水平開口部の構成が推考容易であるとは推断できないといわなければならない。そうすると、イ号の右構成を本件実用新案におけるポケットと均等であるとの原告の主張は採用することができない。

(b)イ号物件に用いられている着想は登録実用新案が採用している前記着想を採用するものであり、しかもその着想は実用新案の考案者の創造にかかるものであるとしても、イ号物件の具体的構成が実用新案の登録請求の範囲に記載の考案構成要件と比較し均等の要件を欠くと認められ畢竟イ号物件は実用新案の考案構成要件の一部が全く欠如していると認めるべきときは、その技術は実用新案の考案を利用するものではなく、これとは同列の別個のものと解すべく、これを用いる行為を実用新案権の侵害であると認めることはできない。けだし、実用新案登録請求の範囲に記載の物品の形状、構造又は組合せに係る考案に対し上位に認め得られる技術思想は、登録請求をした考案あるいはこれから当業者が出願時に推考容易な考案という具体的解決方法において保護されるのであつて、これを離れ、上位概念的技術思想がそれだけで独立して保護されるものではないからである。

(中略)

 そうすると、本件実用新案の右必須要件を欠くイ号物件を被告らが製造、販売する行為はなんら本件実用新案権を侵害するものではないから、侵害することを前提とする原告の本訴請求は失当として棄却する。

[コメント]

 この判決では、利用発明(利用考案)では、当該発明と係争物とを比較し、

・利用発明の構成要件Aと係争物の構成要件A’との相違点が特許出願(又は実用新案登録出願)時の技術常識から均等であるか否かを判断し、

・係争物が利用する発明が、均等の範囲を超える特許発明(又は登録実用新案に係る考案)の上位概念であるときには、利用発明(考案)ではないと考える、

 という判断が示されました。

 同様の判断を示した判決は多数存在するため、利用発明は発明の上位概念を保護するためのものという理解は妥当性を欠くものと思われます。


留意点

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