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外的付加のケーススタディ2とは(利用発明に関して) |
意味 |
外部付加とは 利用発明において、先願(先行する特許出願・実用新案登録出願等)に係る他人の特許発明に対して、当該発明の構成要素と別個の新たな要素を付加することを言います。
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内容 |
@外的付加の意義
特許出願人が先願に係る他人の特許発明を利用して新たな技術的創作を成し得た場合には、その特許出願に対して特許権が付与されたときには利用発明となり、先願権利者の同意を得ずに自己の特許発明を実施すると先願の権利を侵害することになります。
当該特許出願人が先願の権利を知って発明したかどうかは関係ありません。
しかしながら、他人の特許発明を利用するというためには、先願の権利内容をそっくり取り入れる必要があります。元の発明に他の要素を組み込むことで技術的思想としての一体性が失われている場合には、利用関係は成立しません。
ここでは外的付加が問題になった事例のうち、方法の発明に関するものを取り上げます。
A事例1
[事件番号]昭和37年(ワ)第310号
[事件の種類]特許侵害事件(請求棄却)
[発明の名称]ポリエステル繊維
[先行発明の構成]
(イ)HO(H2)nOH系グリコールを
(ロ)テレフタール酸またはテレフタール酸の低級脂肪族エステルと反応させ、
(ハ)反応生成物を加熱して高重合された状態のエステルとすることを特徴とする高重合結晶性または高重合微晶性物質の製造法。
[先行発明の作用効果]
[イ号方法の構成]
エチレングリコール(出発物→先願発明の出発物イの下位概念)
テレフタール酸またはその低級脂肪族エステル(先願発明の出発物ロと同じ)
イソフタール酸またはその低級脂肪族エステ(→第3成分)
の三者を、同時に反応させ、反応生成物を冷間引抜性を有するにいたるまで加熱して、高重合エチレンテレイソタール酸エステル(ポチエチレンテレフタレート・イソフタート)という共重合体(エチレンテレフタレート単位対エチレンイソフタレート単位は九〇―八五対一〇―一五)
を製造する方法である。
[原告の主張]
(a)先行発明の出発物質は、(イ)、(ロ)の2者に限定されるべきではない。
(b)先行発明の構成のうち新規な部分を技術的思想とし、その技術的思想の全部を含んでいれば、利用発明と言える。
[裁判所の見解]
(a)に関して
製造方法の発明の出発物に請求の範囲及び明細書に記載していない第3成分が加えることは別段の事情がない限り認められるべきでないところ、特許出願時(優先権が主張されている本件にあっては優先権主張日)の技術常識から見てそうした事情は見当たらない。
(b)に関して
化学方法の特許では構成要件における出発物から操作(処理)手段を経て、ある特定の目的物の生成という有機的なつながりの一体関係が発明思想であるから、出発物に第三成分を付加することによつて生成される目的物の本質的性格が変化したり、あるいはその有用性効能が著しく増大したりするとき、つまり作用効果が著しく異なるときは、付加前の目的物が生成されずにこれとは異質の目的物が生成されるのであつて、そのことは付加前の出発物操作(処理)手段そして特定の目的物の生成という構成要件のつながりの一体関係が破られていることを示すもの外ならない、この場合には付加に基因して新たなつながりの一体関係が生じているみるべき場合である。すると、そこには付加前の発明思想がそのまま含まれているわけでないから、利用関係は成立しないといえるであろう。
従って、原告が主張する、先行発明の構成のうち新規な部分を技術的思想として、これを全部含んでいるときには、利用発明が成立するという考え方は採用できない。
[コメント]
反応式の出発物に第3成分が加わる場合でも、反応式A+B
→Xで表されるXの製造方法(先願発明)に対して、反応式A+B+C →Yの後願発明であり、後者がA+B →X、X +C
→Yの2段階からなるときには、先願発明の構成要件の全部をそっくり利用していますから、当然ながら、利用発明が成立したと考えられます。
また第3成分がA+B →Xの反応を促進する触媒のようなものである場合も、実施をすれば先願の権利の侵害となるでしょう。
これに対して本件は、利用発明の考え方を事件に当てはめるのが非常に難しい事例だったようです。なぜなら、特許出願時(或いは優先権主張日)に第3成分を付加することを推知することが当業者にできるかどうかを、後日判断することが困難だからです。
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留意点 |
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