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①必須要件項の意義
(a)多項制と単項制との間の変遷
特許出願の特許請求の範囲において複数の項目を記載できる制度を多項制といい、単一の項のみを記載できる制度を単項制と言います(→単項制とは)。
我が国の特許制度は、始まった時点から欧米の特許制度を手本として多項制を採用していましたが、一時的に単項制に移行した時期がありました。昭和34年の特許法改正から昭和50年の特許法改正までの間です。
しかしながら、単項制の下では、例えば特許出願人が、請求の範囲に記載した発明の下位概念(実施態様)を、特許出願の明細書の詳細な記載に記載しておいたとしても、権利行使の際に必ずしも当該実施態様が、請求の範囲に記載された特許発明(発明の必須要件を記載したもの)の技術的範囲に属すると裁判所が判断するか否かは解らないという不利があります。
(b)そこで一つの特許出願に含めることができる発明の範囲に関して厳しい条件(一出願一発明の原則及び併合出願制度)を課した上で、独立形式で記載される必須要件項と、引用形式で記載される実施態様項とを請求の範囲に記載することができる変則的な多項制が昭和50年の改正で導入されました(昭和62年改正により廃止)。
→実施態様項とは
②必須要件項の内容
(a)必須要件項は、発明に必須の構成を独立形式で記載したものです。
必須要件項の意義は、記載形式では、現在の多項制の“独立項”に相当し、また法的な位置付けとしては、現在の多項制の“請求項”に対応します。
(b)すなわち、前述の一出願一発明の原則及び例外(併合出願制度)の下では、一つの特許出願の請求の範囲に複数の必須要件項が記載されると期には、併合条件を満たす他の発明(異なる発明)でなければなりません。従って、新規性・進歩性などの特許要件は、それぞれ別個に(独立に)審査されることになり、権利の行使もそれぞれ別々に行うことができます。
(c)特許法第126条第4項には、訂正審判の要件として、「訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」旨が定められていますが、この条文のうちの「独立して」の文言は、もともとは必須要件項の独立的性格を前提としています。
(イ)すなわち、特許出願の際に必須要件項として記載された発明に特許が付与された後に、新規性・進歩性が欠如することが判明し、訂正審判を請求して、必須要件項を引用する実施態様項を必須要件項とする訂正をしようとする場合、その実施態様項は特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければならないという意味です。
(ロ)例えば下記のような場合であって、必須要件項が特許出願の際に特許を受けることができないものであれば、実施態様項も特許出願の際に特許を受けることができないと認められるときには、無効審判の攻撃に対する対抗手段という訂正審判の性格上、訂正の請求を認める必要がないからです。
必須要件項→断面多角形の鉛筆の発明(∴断面多角形だから斜面においても転がらない。)
実施態様項→断面六角形の鉛筆の発明(∴断面六角形だから斜面においても転がらない。)
(ハ)実施態様項を必須要件項として格上げする訂正をするのであれば、もともと特許出願の際に必須要件項として記載したものであっても、特許を受けることができるものでなければならないということです。
(ニ)昭和62年の改正により必須要件項及び実施態様項という用語はなくなりましたが、必須要件項の独立的性格は現在の多項制の請求項(独立形式で記載されたか、引用形式で記載されたかを問わない)に引き継がれていますので、訂正の要件としての「独立して」という文言は残されているのです。
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