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①特許出願の実施例の拡張ないし一般化の意義
(a)特許出願人は、発明の公開の代償として発明の保護を求める範囲を自ら定める責任を負います。
特許審査基準では、“(特許出願の)請求項は、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができる。”と述べられています。
(b)発明の創作の過程では、幾度も実験を繰り返すうちに最初の成功例(実験例)に至ることができることがあります。
例えばエジソンの白熱灯は、内部を真空としたガラス球にフィラメントと呼ばれる炭素の芯を封入し、通電する仕組みですが、最初の実験例で使われたフィラメントは炭化させた紙であって、通電すると一分間も持たないものでした。材料を変えて実験を繰り返すことで木綿糸にタールを塗ったものをフィラメントとすることで45時間の使用に耐えうる白熱電灯を開発しました(最初の成功例)。しかしながら、これでは実用品としてはまだ寿命が短すぎるためにその後も研究を続け、竹をフィラメントにすることで(アイディアの拡張)数千時間の寿命を持つ白熱電灯が成立したのです。
特許出願をするときには、発明の核となるアイディアを拡張し、上位概念化して、一定の広がりを有する発明の範囲について保護を求めることが重要です。
(c)アイディア(発明)の概念を拡張し、或いは上位概念化する作業は、基本的には、創作段階で発明者が思索及び実験を通じて行うものです。
特許出願の準備段階で明細書担当者も発明者から託されたアイディアの概念を拡張し、一般化しようと試みますが、それが行き過ぎて、特許出願時の技術常識から拡張・上位概念化できないところまで、発明の範囲を広げてしまうと、サポート要件を満たしていないとして特許出願人に対して拒絶理由が通知されることになります。
(d)特許審査基準によると、“発明の詳細な説明に記載された範囲を超えないものとして拡張ないし一般化できる程度は、各技術分野の特性により異なる。”とされています。
一般に化学の分野のごとく、物の有する機能・特性等とその物の構造との関係を理解することが困難な技術分野に比べて、機械の分野のごとく、機能・特性と物の構造の関係を理解することが比較的容易な技術分野
では、発明の詳細な説明に記載された具体例から拡張ないし一般化できる 範囲は広くなる傾向があります。
前述の白熱灯の例を見ても、物の機能(例えば実用的な長さに亘って通電に耐え発光できるフィラメントの機能)と物の構造(フィラメントの材料)との間の関係を把握するために多数の実験を行っていますので、機械の分野でも正確に両者の関係を理解することは必ずしも容易ではありませんが、化学の分野に比べると、やはり関係性を予測することは相対的に容易なことが多いのです。
②特許出願の実施例の拡張ないし一般化の内容
(a)サポート要件の特許審査基準では、サポート要件違反のうちで“特許出願時の技術常識を考慮しても実施例から請求項の範囲まで拡張・一般化できない場合”(類型3)に関して次の事例を挙げて説明しています。
(イ)請求項には、R 受容体活性化化合物の発明が包括的に記載されている。しかし、発
明の詳細な説明には、具体例として、新規なR受容体活性化化合物 X、Y、Z の化学構
造及び製造方法が記載されているのみであり、特許出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一
般化できるとはいえない場合
(ロ)請求項には、達成すべき結果により規定された発明(例えば、所望のエネルギー効率の範囲により規定されたハイブリッドカーの発明)が記載されているが、発明の詳細な説明には、特定の手段による発明が記載されているのみであり、特許出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
(ハ)請求項には、数式又は数値を用いて規定された物(例えば、高分子組成物、プラス
チックフィルム、合成繊維又はタイヤ)の発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には、課題を解決するためにその数式又は数値の範囲を定めたことが記載されているが、特許出願時の技術常識に照らしても、その数式又は数値の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡
張ないし一般化できるとはいえない場合 →特許出願のサポート要件違反のケーススタディ(第3類型-1)
(b)特許出願時の技術常識から実施例を拡張・一般化できる範囲を超えているかどうかを判断するときには、“請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できる”かどうかが問題となります。
従って、特許出願人は明細書に記載する発明の課題が重要だということに注意するべきです。発明の優秀性を誇張するために、発明の課題を限定的に記載する場合、例えば、“不都合を軽減できる”という効果しか実験的に確認されていないのに、“不都合を(完全に)防止できる”というような書き方は望ましくないと考えられます。
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