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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1026   

特許出願のサポート要件の類型CS-2/請求項

 
体系 特許申請及びこれに付随する手続
用語

特許出願のサポート要件違反のケーススタディ(第3類型-2)

意義  特許出願のサポート要件とは、請求項に記載された、出願人が特許を受けようとする発明が当該特許出願の発明の詳細な説明に記載されたものであることを要することです(特許法第36条第6項第1号)。


内容 @サポート要件の第3類型

 サポート要件の第3類型は、請求項に記載された発明の範囲が発明の詳細な説明に記載された範囲よりも広く、特許出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に記載された発明の内容を拡張ないし一般化できると言えない場合です。ここでは、

・特許出願人がDNA分子の配列番号と機能(ハイブリダイズ能力)とで発明の範囲を特定した事例であって、配列の数が膨大であるために明細書で記載した複数の実施例(50余例)ではサポートできていない場合

 を紹介します。

A事例1

[事件の表示]平成17年(行ケ)第10013号(拒絶審決取消請求・棄却)

[発明の名称]体重のモジュレーター、対応する核酸およびタンパク質

[請求の範囲の記載] 配列番号1、3、22、もしくは24に記載のDNA分子の連続する配列または配列番号1、3、22、もしくは24に記載のDNA分子の相補鎖に、高度の厳密性の条件下でハイブリダイズする能力を有する、少なくとも15ヌクレオチドの検出可能な標識をされた核酸分子。

※ハイブリダイゼーション…DNAまたはRNAの分子が相補的に複合体を形成すること。

[発明の詳細な説明の記載]

 “配列番号1、3、22もしくは24という特定のDNA分子の連続配列またはその相補鎖”の数は膨大な数になるところ、明細書に記載された実施例は50余に過ぎない。

[特許出願に対する拒絶審決の理由]

・本願発明の核酸分子には、その塩基配列が、元の「配列番号1、3、22もしくは24という特定のDNA分子の連続配列またはその相補鎖」とは不規則に配列の異なるものが無数に含まれるため、その範囲が不明確となるので、本願発明は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない、

・本願発明の核酸分子には、プローブやプライマーとして使用できないものが含まれており、「産業上利用することができる発明」とは認められないので、同法29条1項柱書に規定する要件を満たしていない、

・本件明細書の発明の詳細な説明が、当業者において本願発明を容易に実施することができる程度に記載されているものと認められないので、同法旧36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの)に規定する要件を満たしていない、

・本願発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえないから、同法36条6項1号に規定する要件を満たしていない
→サポート要件と実施可能要件との関係
ので、本件特許出願は拒絶すべきものであるとした。

[裁判所の判断]

 本件特許出願に係る発明は、請求の範囲に記載の通りの遺伝子関連の化学物質発明であり、その有用性が明らかにされる必要があることは、明細書の発明の詳細な説明の記載要領を規定した特許法旧36条4項の実施可能要件についても同様である。なぜならば、当業者が、当該化学物質の発明を実施するためには、特許出願当時の技術常識に基づいて、その発明に係る物質を製造することができ、かつ、これを使用することができなければならないところ、発明の詳細な説明中に有用性が明らかにされていなければ、当該発明に係る物質を使用することはできず、したがって、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載する必要があるからである。

 本願発明は、「哺乳動物の脂肪蓄積および脂肪含量の制御を可能にする体重のモジュレーターをコードするDNA分子にハイブリダイズし得る検出可能な標識をされた核酸分子」を提供することを目的とするものであり、より具体的には、プローブやプライマーとして利用し「体重のモジュレーターをコードするDNA分子」(本件OB遺伝子)を検出、増幅することができることをその有用性とする化学物質発明というべきである。

 本件特許出願は、請求の範囲の主要な部分が、いわゆる機能的クレームによって占められた記載となっているものである。このような機能的記載も、その機能を達成する具体的な手段が明細書に開示されている限り、許されることは当然であるが、この記載は、「本件OB遺伝子に高度の厳密性の条件下でハイブリダイズする能力を有する」という性質又は作用効果を有する本件核酸分子であれば、すべて、本願発明に含まれるような形になっているので、有用性の観点から、本件核酸分子の有すべき性質又は作用効果について検討しておく必要がある。

 特許出願時の技術文献を参酌すると、ハイブリダイズする能力を論ずる上ではハイブリダイゼーションに特異性が求められることを前提となっている。本発明の有用性が担保されるためには、すなわち、本件核酸分子が、プローブやプライマーとして利用されて、正しく本件OB遺伝子を検出、増幅するためには、本件核酸分子が、本件OB遺伝子と特異的にハイブリダイズすることが必要であるが、ここに特異的であるとは、他の遺伝子とハイブリダイズすることなく、本件OB遺伝子とのみハイブリダイズすることであり、換言すると、本件OB遺伝子に対する明白な識別性を有することを意味するものというべきである。

 (中略)

 本件特許出願の明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲記載の構成を満たす、すべての「核酸分子」について、その有用性、すなわち、プローブやプライマーとして利用して本件OB遺伝子を特異的に検出、増幅することができることが明らかであるように記載されていなければならないところ、

 本件明細書の発明の詳細な説明において、上記50余りの実施例の結果から、当業者にその有用性、すなわち、明白な識別性が認識できる程度のものとなっているものと認めるに足りず、また、

 一部の核酸分子について、本件OB遺伝子との特異的なハイブリダイズを期待することができない、すなわち、有用性を有しないという客観的な事情が存在するのであるから、

 本件明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえないことは明らかであって、特許法旧36条4項の記載要件を満たしていない。
特許出願のサポート要件違反のケーススタディ(第3類型-1)

[コメント] サポート違反のケーススタディ(第3類型-1)で挙げた事例では、広範な範囲をサポートするパラメータ特許に対して僅か2つの実施例及び2つの対比例しか挙げていない事例ですが、本件の特許出願人は50余の実施例を挙げています。しかしながら、サポートされるDNA分子の配列番号1、3、22、24には、それぞれ2973塩基、700塩基、414塩基、801塩基の長さを有しますので、その広さに見合った実施例がないとして、サポート要件・実施可能要件が否定されました。


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