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①取得時効の意義
(a)取得時効の典型例は、甲が他人乙の土地に家を建てて一定の期間住み続ける(占有する)ことにより、甲は、取得時効の完成を以て、本来は他人乙の物であった土地の所有権を取得できるというものです。
この制度の根底には、“権利の上に保護する者はこれを保護せず”という考え方があります。乙は、取得時効が完成する前に甲を追い出すような措置をとるべきだったのです。
(b)所有権の取得時効の最小限の条件は、次の通りです(民法162条第1項)
(イ)対象物を占有していること →占有とは
(ロ)占有者が所有の意思を持っていること。
例えば単なる他人の物を借りている状態を除外するためです。
(ハ)平穏にかつ公然と占有していること。
(ニ)一定期間に亘って占有していること。
(c)一定期間とは、最低の条件の下では20年間ですが、占有がその状態の開始に善意であり、かつ過失がなく始まったときには10年間となります(民法162条)。
(d)所有権以外の取得時効に関しては、民法163条があります。
「所有権以外の財産権を、自己のためにする意思を持って、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区分に従い20年間又は10年を経過した後、その権利を取得する。」
地上権や賃貸権などが該当すると言われています。例えば建物を無権限に占有する者甲が他人乙と賃貸契約を結び、その賃借人乙が賃貸人甲に家賃を所定期間支払っていれば、真の所有者丙に対しても、賃貸権を対抗できるという具合です。
②取得時効の内容
(a)権利者の如く占有する状態が長く続くことで権利を取得することを時効取得と言いますが、特許権に関しては、「特許権は、設定の登録により発生する。」と規定されていますので(特許法第66条第1項)、時効取得できないと考えられています。
他方、著作権に関しては時効取得の可能性があります。平成4年(オ)第1443号において“著作権法二一条の複製権を時効取得する要件としての継続的な行使があるというためには、著作物の全部又は一部につき外形的に著作権者と同様に複製権を独占的、排他的に行使する状態が継続されていることを要し、そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負う。”旨の判断が示されているからです。
(c)職務発明の特許を受ける権利(特許出願をすることなどを内容とする権利)の取得時効に関して事例があります(平成16年(ネ)第35条)。
原告(従業者=発明者)と被告(雇用者)との間で、乙がした特許出願に係る特許を受ける権利の帰属を巡って争いがあり、被告が
(イ)被告は、被告においてあらかじめ制定した被告規程に基づき、原告外3名の共同発明者から、本件製法特許に係る発明についての特許を受ける権利を譲り受けた、
(ロ)本件特許権は、被告名義の特許出願によりで登録されたところ、被告は、その後、本件特許権の権利者として権利行使する等の行動をし、かつ、上記登録時、善意であり過失もなかったから、上記登録時から10年の経過により本件特許権を時効取得した(民法163条)のであり、仮に、本件特許権2が被告に帰属しないとする余地があるなら、被告は、上記取得時効を援用する、
と主張したケースです。裁判所は(イ)の主張を認めたために、特許を受ける権利の時効取得の問題にはなりませんでした。
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