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@公信の原則の意義
(a)物権の取引の安全を確保するための原則として、公示の原則及び公信の原則があります。
(b)公示の原則は、排他的な権利の変動は外界から認識できる表象(公示の手段)を備えなければ完全には効力を生じないというものです(→公示の原則とは)。
(c)公信の原則は、その公示の手段が示す内容が真実の権利関係に伴っていない場合でも取引者の安全のために、当該公示に真実の権利関係が伴っているのと同様の法律関係を生じさせる効力(公信力)を与えるという形で現れます(→公信力)。
(d)もっとも、こうした公信力は、どういう場面でも無条件で認められるというものではありません。
(e)典型的な例としては、他人の動産を占有する者を所有者と誤信してその物を買い取った者に対して所有権を認めるという事例が該当します。
動産の場合には、公示の手段が十分に整っていないこともあり、日常的な取引の度にいちいち真の権利者を確認することは困難であるため、動産の占有者を所有者と信じて購入した者を保護する必要があるのです。
(f)これに対して不動産の登記などでは、公信力は認められません。
A公信の原則の内容
(a)特許出願をする意味は、新規発明の開示の代償として、独占排他権たる特許権を取得することであり、この特許権は排他的権利であるために、公示の原則により、権利の発生・変動は特許原簿に登録することになっています。
(b)特許権の変動が真実の権利関係に対応していない場合
しかしながら、偽りの譲渡証を添付して移転登録の申請をしても、公信力が認められることはなく、特許原簿には公信に記載された偽りの権利者を真の特許権者と信じて取引をした者が保護されることはありません。
公信力を認めることは、取引の安全を保護する反面、真の権利者の利益を制限することにもなります。特許権は、動産のように日常的に移転されるものではないため、不動産と同じような扱いがされているのです。
(c)特許権の発生が事実の権利関係に対応していない場合
・真の発明者でない者が特許出願(いわゆる冒認出願)をして特許権を取得してしまう場合があります。こうした場合に、真に特許を受ける権利を有する者から特許原簿上の権利者に移転請求ができるかどうかに関しては、特許制度の枠を反するとして否定する例もありました(東京地判H14.7.17)。
・しかしながら、平成23年の特許法改正により、こうした場合に下記の規定(特許法第74条第1項)が導入され、移転の請求ができるようになりました。
「特許が第123条第1項第2号に規定する要件に該当するとき(その特許が第38条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第6号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。」
・なお特許法第38条の規定に違反している場合とは、“特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。”という要件に違反している場合であり、
・特許法第123条第1項第6号に該当する場合とは、“その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき”という要件に該当する場合をいいます。
・そして特許法第74条第1項において、移転請求の対象者に関して、“冒認者(特許を受ける権利を有さずに特許出願をした者)或いは共同出願要件を具備しない特許出願をした者に対して”ではなく、「特許権者に対して」としたのは、前記冒認者又は共同出願要件違反者が特許権を第三者に譲渡していた場合にも、特許権の転得者に対して真の権利者が移転の登録を請求できるとする趣旨です。
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