パテントに関する専門用語
  

 No:  1082   

非自明性(進歩性)の判断・他人の失敗/特許出願の要件(外国)

 
体系 実体法
用語

非自明性(進歩性)の判断(他人の失敗)

意味  非自明性(Non Obviousness)とは、アメリカ特許出願の発明の特許要件であり、所定の判断時点において当業者が容易に想到し得ないこと(我国でいう進歩性を有しないこと)を言います。

 他人の失敗(failure of others)とは、ある課題、特に長期間望まれていた未解決の課題(long-felt and unresolved problem)に対して、他人が解決を試み、技術的な困難性故に不成功に終わったことをいいます。


内容 ①他人の失敗の意義

(a)特許出願人の発明、特に一見したところ容易に構成できるように見える発明の、進歩性(非自明性)を判断するのはやさしい仕事ではありません。何故ならばdecision maker(判断者)は、創作時に発明者が知り得ない情報(技術常識など)を学習してしまっているために、どうしても容易想到と判断する方向へのバイアスが作用するからです。

(b)そこで純粋に技術的な側面(構成の相違や作用効果など)以外の事情にも光を当ててより客観的に判断することが米国特許出願の実務として採用されています。これを2次的考察といい、その一つとして他人の失敗が挙げられます。

(c)他人の失敗は、特許出願の時(或いは発明の時)において、その当時の人間にとって何が容易で、何が困難であったのかを知る有力な資料となります。

(d)特に長期間望まれていながら未解決な課題であって、幾人もの他人が解決を試みたが或る越えがたいハードルがあって失敗したという場合には、他人の失敗の意味が重要性をまします。
非自明性(進歩性)の判断(長期間望まれていた未解決課題)

②他人の失敗の内容

(a)前述のハードルというのは、発明の構成に想到することの困難性をうかがわせるものでなければなりません。

(b)例えば或る問題を解決したいから、その問題が生ずる原因が判らないか、或いは誤解されており、その結果誰も成功しなかったという場合です。

(c)一例としてIn re Sponnobleの混合バイアルの事例(405 F.2d 578)を挙げます。

 混合バイアルとは、一般に使用する直前に混合させる2剤(例えば粉薬と水)を収納するために、筒体の中間部を括れており、この括れ部内に栓体(プラグ)を着脱自在に嵌め込み、その両側に粉薬用のコンパートメントと水用のコンパートメントとを形成し、外部からの操作によりプラグを水側へ脱落させ、水が粉薬側へ流れ込むという構成であります。

 ところが、どういう訳かプラグを脱落させる前に微量の水が徐々に粉薬側へ入り込み、粉薬の劣化を生じていました。

 当時の人は、その原因は括れ部の内面に顕微鏡でしか見えない程度のひびがあり、このひびを通じて水が流れ込んでいると解釈しました。従って、ひびを塞ぐような柔らかい材質(天然ゴム)でプラグを形成しましたが、誰もこの問題を解決できませんでした。

 Sponnobleは、水分が粉薬側へ入り込む理由は、括れ部の表面のひびではなく、天然ゴム自身が水を透過することにあると、推察しました。そして天然ゴムの代わりに、硬くて水を透過しにくいプチルゴムを使用してプラグを形成し、この問題を見事に解決しました。

 Sponnobleの特許出願に対して、審判部はプラグの材料を天然ゴムからプチルゴムに選択することは自明の選択として拒絶しましたが、裁判所は、問題の原因自体の発見自体に困難性があるときには、たとえその原因が判明した後の時点でその解決策が自明であろうとも、非自明性(進歩性)があるとして、審決を覆しました。


留意点

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