体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
Battle of Form(書面の戦い) |
意味 |
Battle of
Form(契約書式の戦い)とは、例えば米国企業同士の契約交渉において散見される事象であって、要するに、契約の交渉中に契約に入ろうとする当事者双方が自分に有利になる契約書の書式を相手に送り合うことを言います。
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内容 |
①Battle of Formの意義
(a)例えば甲が乙に対してある機械を購入するために注文書を送付し、これに対して、乙が甲に対して注文承り書を送付したとします。普通は、買主と売主の意思の合意があって、売買契約が成立したことになります。
(b)ところが、注文書の裏面に購入約款が、また注文承り書の裏面に販売約款がそれぞれ記載されていたとします。
それらの約款の一部に矛盾した内容であることに売買契約の当事者が気づかず、後日に問題が発生したときにどちらの約款で合意が成立したのか、争いになる可能性があります。
(c)一般論として、契約の合意条件には、機械の数量・価格などの取引の主となる条件(→主要条項とは)の他に、どの種類の契約にも共通する事項を定めた一般的な条項(→一般条項とは)があります。
前者は当然誰でも注意してみますが、後者に関してはそうではありません。こうした一般的な条項は、契約書の端の部分に細い文字で書いていたり、前述の通り契約書の裏に書いてあることが多いので、なおさらです。
(d)こうした事情がなくても、本来ビジネスマン同士でのやり取りでは、当初の申込がそのまま承諾されることは少ないのであって、双方が自分に有利な事柄を引き出そうとしてあれこれやり取りをするものです。しかしながら、契約の基礎である合意があったというためには、申込と承諾とは、鏡に映った物のイメージのようにピタリと合う必要があります(→mirror
image ruleとは)。
(e)従って、どの時点で合意が成立したのかが問題となり、それが書式の戦いの中心です。
(f)
米国の多くの州ではビジネスに関して、Uniform Commercial
Code、すなわち、米国統一商事法典が採用されており、これは米国では書式の戦いに重要な意味があります。
②Battle of
Formの内容
(a)売買の条件として、知的財産権がどう関わるのかというと、例えば特許権侵害などに対する免責条項があります。買主が売主に対して第三者の権利を侵害していないことの保証を求めることがあります。しかしながら、売主としては、全ての国での権利侵害調査をすることは現実的でないので、売主の国以外での出来事は免責としていたいという希望があり、買主と利害が対立する可能性があります。
(b)また特許権や特許出願を他人に譲渡するときに、書式の戦いになる可能性があります。
(c)Battle of
Formが生ずることを回避するために、契約書の中で、この書類が最終的なものであることを示す完全合意条項(Entire
Agreement)を設けることがあります。 →完全合意条項(Entire Agreement)とは
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留意点 |
日本人は、契約は相手を信頼して締結するものであるとして、相手が用意したformに簡単にサインしてしまう場合がありますが、それは大変にリスクのある行為です。
なぜならそうしたformを用意している業者は、当然その分野の判例を調べ尽くして自分に有利な条件を織り込んでいるのが普通だからです。
そうした条件の中には、相手が条件を受け入れるリスクを予め知っていればに受け入れることはありえない事柄を含んでいる可能性があります。そして当該リスクは単に一般人が契約書の文面を読んだだけでは理解できず、過去の多数の判例を読んで初めて理解できるように隠されている場合があります。例えば一方の当事者が一方的に不利益を被る状況になっても途中解約の条項がないために解約できないなどです(→契約解除条項とは)
一旦契約書をサインした後にそうした意図ではなかったと弁明しても、裁判所がその主張を認める可能性は低いです。契約自由の原則により自分の意思でその契約に署名したと判断されるからです。
従って特定分野の法律事情を知らない人が当該分野の契約書にサインするときには、当該分野の事情に詳しい人のアドバイスを受けることが重要です。
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