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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1097   

準拠法CS/特許出願/進歩性/禁反言

 
体系 国際私法
用語

準拠法のケーススタディ

意味  準拠法とは、国際司法により指定され特定の渉外的法律関係に適用される法をいいます。


内容 @準拠法を決定する意義 

 特許権・実用新案権・意匠権・商標権などの権利は、産業の発達を付与する目的で付与されるので、この産業の発達に最も効率的に寄与するように、権利化の要件や権利の効力を定める必要があります。そのために特許出願などの要件(例えば新規性・進歩性)や特許権の効力が及ぶ範囲などは、各国毎に似たようなことを定めているようでも、本来別々であり、相互に相違するところは各国の産業を保護する上で重要な事柄であるのです。

 一例を挙げれば、特許出願の審査の段階において先行技術との相違点に関して意見書などで特許出願人が主張した事柄と反する権利範囲を主張するというルール(いわゆる禁反言)は、アメリカの裁判所では同一の特許出願から派生した複数の出願の間で広く求められていますが、日本の裁判所は、異なる特許出願(例えば原出願と分割出願)の間で禁反言の原則を適用することには、全く例がないわけではないにせよ、消極的な態度を取っています。

 また米国では特許権などの侵害に対して懲罰的賠償を認める制度がありますが、日本ではこうした制度を認めると、大きな混乱をもたらすと考えられます。
懲罰的損害賠償(Punitive damage)とは

 一つの国の法制を域外適用することにはこうした困難性があることを念頭において、アメリカでの特許侵害の損害賠償の規定を我国へ適用しようとする試みをケーススタディします。

A準拠法の事例

[事件の表示]平成12年(受)第580号(カードリーダー事件)

[事件の種類]損害賠償等請求事件

[事件の経緯]

(a)Aは、「FM信号復調装置」という発明についてアメリカに特許出願し、権利(特許番号第4540947号)を取得しましたが、日本には特許出願していませんでした。

(b)永Bは、カードリーダーを日本で製造し、Bが100%出資したアメリカ法人Cを通じてアメリカ内で販売を行っていました。

(c)Aは、日本の裁判所に訴えを提起しました

(@)カードリーダーをアメリカに輸出する目的で我国で製造すること、我国で製造したカードリーダーをアメリカへ輸出すること等の差止め

(A)Yが日本において占有するカードリーダーAの廃棄

(B)不法行為による損害賠償請求

  ここでは(B)についてのみ解説します。(@)(A)に関しては下記を参照。
属地主義のケーススタディ1

(d)この事例に関して最高裁判所は次の判断を示しました。

・本件損害賠償請求は、本件両当事者が住所又は本店所在地を我が国とする日本人及び日本法人であり、我が国における行為に関する請求であるが、被侵害利益が米国特許権であるという点において、渉外的要素を含む法律関係であって準拠法を決定する必要がある。

・特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権固有の問題ではなく、財産権の侵害に関する民事上の救済の一環に他ならないから、法律関係の性質は、「不法行為の問題」とされた。

・不法行為の準拠法は、法例11条に規定されている。法例11条1項には、「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、その原因たる事実の発生したる地(本件では米国)の法律による」とされている一方、法例11条2項には、「外国において発生した事実が日本の法律によれば不法ならざるときはこれを適用せず」とされている。

 すなわち、米国の法律において違法とされても、我が国の法律において違法でない場合には、違法とはされない。このように、米国法だけでなく、我が国の法律も累積的に適用される。

・そこで、我が国の法律を見ると、米国特許法第271条(b)項のような、特許権の効力を自国の領域外における・・・行為に及ぼすことを可能とする規定を持たないため・・・特許権の効力は及ばない登録国の領域外において特許権侵害を積極的に誘導する行為について違法ということができない。

・従って、不法行為の成立要件を具備しないとされた。すなわち、上記(B)の請求は、認められなかった。

[コメント]この訴訟の意義は、特許権の損害賠償の問題は、特許権の差止請求の問題と異なり、特許権に固有の問題ではないと判示したことです。

∵差止請求権は特許法第100条に基づくものであり、これに対して不法行為による損害賠償は民法709条に基づきます。

 従って他の財産権の問題と同様に、準拠法が域外適用を認める余地を残していれば、我国に同法が適用される余地があります。しかしながら本事例では、アメリカ特許法に域外適用を認める余地が存在せず、その域外適用はできませんでした。


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