体系 |
民法 |
用語 |
非侵害保証条項のケーススタディ1 |
意味 |
非侵害保証条項とは、契約の対象を実施することが第三者の知的財産権を侵害しないことを定めた条項を言います。 →非侵害保証条項とは
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内容 |
①非侵害保証条項の意義
(a)特許出願人が開示する新規発明を世間にオープンすることの代償として特許権が付与されますが、この特許権の本質を巡っては、専用権説と排他権説とが存在しています。
→専用権説とは
そして特許発明のライセンス契約に関しても、ライセンサーがライセンシーに対して第三者の知的財産権によって実施を妨げられることを排除する義務まで負うのかどうかに関しては専用権説に立つ論者と排他権説に立つ論者とで意見を異にします。
こうした学説に左右されずに、ライセンシーの実施を確保する条項として非侵害保証条項がありますが、こうした条項も契約毎に言い回しや義務内容が異なることがあります。こうした条項に関してケーススタディします。
②非侵害保証条項の事例の内容
[事件の表示]昭和60年(ワ)第10708号
[事件の種類]立替金請求事件
[判決の言い渡し日]平成1年 8月30日
[発明の名称]飲料水の鉱水化装置(他1件)
[事件の経緯]
(a)被告は、「飲料水の鉱水化装置」という発明について特許出願(特開昭48-52836号)をするとともに、「飲料用鉱水の生成供給装置」という考案について実用新案登録出願(実開昭47-140737号)をし、特許権860835号及び実用新案登録第1116611号を付与された。
(b)被告は、本件特許発明の実施品としてミネラルウォーター生成器(被告製造品)を自ら製造・販売していた。そのカタログには、当該製品が「高周波発信器」を備えている旨が記載されていた。
(c)被告は、昭和55年7月頃、原告との間で次の解約を締結した。
・原告に対して、次の前述の特許発明等の範囲全部について専用実施権を設定する。
・被告は、本件契約後直ちに本件特許発明等の実施に必要な技術資料を原告に開示する。
・原告は、本契約の締結後に本件特許等に係る物品の工業的生産を行うものとし、被告は必要な技術的援助を行うものとする。
・第三者より原告に対して本件特許並びに実用新案権製品について侵害行為の通告ありたる時は、被告は責任を持ってその排除を行う(「本件条項」という)。
(d)原告は、当初原告の在庫品(完成品)を引き取って販売し、ついで被告所有の在庫部品を引き取って製品を販売していた。その後原告は、性能や大きさの異なる原告製品(本件製品)を製造・販売したが、その基本的構成は同じであった。
(e)原告の当初のカタログには、被告のものと同様に当該製品が「高周波発信器」を備えている旨が記載されていた。しかしながら、原告は、その後にカタログに「超音波発信器」を備える旨を記載するようになった(製品の構成に変更なし)。
(f)昭和58年5月31日頃、訴外A(第三者という)から、本件製品は第三者の保有する特許権を侵害する旨の通告(第1回目通告)があった。
(g)昭和58年6月9日頃、原告は、第1回目通告があったことを被告に伝え、本件紛争を本件条項に従って被告の責任において解決することを要請した。
(h)被告は、同月13日頃に、原告に対して、「本件契約締結の際に指導したように『高周波発信器』を使用して本件製品を製造するよう指示し、そうすれば、第三者の抗議は発生しなくなると思う。」旨を回答した。
(i)原告は、昭和58年7月11日頃、第三者に対して“本件製品は『超音波』ではなく『高周波』を用いる製品であり、カタログ中の『超音波』という記載は誤りであるため訂正する。”旨を伝えた。
(j)ところが第三者は、昭和58年8月9日頃、本件製品を調査したところ、超音波発信器を備えていることが確認され、第三者の特許権に抵触する旨を明言し、本件製品の製造・販売の中止、と損害賠償を求めた(第二回通告)。
(k)そこで原告は、被告に対して、何度も本件訴訟の早期解決を要望してきたが、被告により本件訴訟の積極的解決が図られることはなかった。
被告は、昭和59年1月30日頃に、原告に対して、“本件条項は、原告と被告とが本件特許発明などの有効性を争わないという趣旨であり、第三者から被告に直接接渉があれば原告と相談して速やかに対応するが、予見して行動することはしない”旨を表明した。
(l)原告は、その後、第三者と直接交渉をして、損害金として所定額を支払うとの条件提示を受けたので、原告に対して、これを原告で負担してくれないかと提案したが、原告はこれを拒否した。
(m)第三者は、原告に対して、昭和57年10月19日付け書面により、損害金を減額した上で“損害金の支払いに応じなければ本件製品の製造、販売の差し止めと損害賠償を求める訴訟を東京地裁に定期する旨”の最後通告を行った。
(n)そこで原告は、直ちにこれを被告に通じするとともに、速やかに本件訴訟を解決することを要請し、回答を依頼した。
(o)しかしながら、一月近く経ても回答を得られなかったので、原告は被告を訪問し、本件訴訟の解決を依頼したが、被告は、紛争解決のための交渉は原告で行うようにと述べるに至った。
(p)そこで原告は第三者と和解交渉をし、損害金の支払い、さらに実施料を支払って第三者から実施権を取得する和解を行った。
(q)原告は、被告が前記損害金などを立替金として支払うことを求めて提訴した。
[裁判所の判断]
(a)被告は、本件特許発明等とその製品化の技術につき精通しており、本件契約では、原告が被告に対し、本件特許発明等の実施に必要な技術資料を開示し、工業的生産に必要な技術的援助を行う旨の条項が定められている。
(b)そして本計約は、被告の有する本件特許発明などの実施に関する有償契約であり、その実施の実現について担保責任の規定が適用されると解する余地がある。
(c)これらの事情を総合考慮し、当事者の合理的位置に合致するように、本件条項を解釈すると、「原告が本件特許発明の実施として製造、販売した製品について、第三者からその有する特許権又は実用新案権の侵害品である旨の通告があった場合には、被告が、その責任と費用負担において、その真偽を調査し、侵害、非侵害いずれの場合にせよ、右第三者と接渉して、原告において円滑に本件特許発明などの実施品を製造、販売できるようにするべき義務を負うことを定めたもの」と解するのが合理的である。
[コメント]
(a)本事件では「高周波発振器」と「超音波発信器」との関係が明確ではありませんが、裁判所は、本件特許発明中の「高周波発振器」の意義に関して、電気エネルギーを用いて超音波を発するものと解釈するのが最も合理的である、と認定されています。
(b)判例中の瑕疵担保の規定とは、売買の対象に“隠れたる瑕疵”がある場合に売主の担保責任を認めるものであり(民法570条)、その態様として、
(イ)その種類のものとして通常有するべき品質や性能を欠く場合
(ロ)売主が予め示した見本の性能と、売った物の性能とが合致しない場合
の他に、
(ハ)売買の目的物に法律上の制限がある場合
があると言われています。例えば住宅地とならない地域の土地を宅地として販売したという如くです(昭和40年(オ)第690号)。
本判決中の瑕疵は、前記の(ハ)のタイプに該当すると考えられます。
知財の分野では、特許法72条に“特許権者、専用実施権者または通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明を実施することができない。”と定められており、これが前述の“法律上の制限”に該当する可能性があります。
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留意点 |
この種の条項では、特許侵害の有無の立証が大きな論点になる場合があります。 →非侵害保証条項のケーススタディ2
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