内容 |
@相殺の意義
(a)例えば甲が乙に対して20万円の債権を有し、他方、乙が甲に対して10万円の債権を有する場合に、その10万円を相殺できます。
(b)相殺を禁止する特約がある場合には、相殺をすることができません。
(c)相殺は、双方が別々に取り立てを行う面倒と不公平とを回避する手段です。
A相殺の内容
(a)特許出願人に対して発明公開の代償として付与される特許権は、独占排他的権利であり、その特許発明を権限なく実施すると、特許侵害となります。
逆に言えば、事業者であれば誰でも、特許侵害で訴えられる可能性があることになります。ライバル会社乙が甲の特許を侵害していると提訴した甲が、その訴訟の進行中に、訴えていた甲が、逆に乙から乙の特許を侵害していると訴えられる場合があります。互いの権利を侵害し合っている状態を相互侵害といいます。
(b)多数の特許を相互に持ち合うことが通常である産業分野では、相手の特許権を侵害していると警告を受けたときに、逆に、自己の特許権を相手が侵害していないかを検討するというのがセオリーです。
(c)こうした場合に、裁判手続の中で特許侵害の“相殺の抗弁”が認められれば有利なのですが、司法はこれに否定的です。最高裁判所の判決(平成8年(オ)第730号)により“相殺の抗弁”の主張は排斥されています。
→相殺の抗弁とは
なぜなら、民法第509条には,「債務が不法行為に因りて生じたるときは,その債務者は相殺を以て債権者に対抗することを得ず」と規定されているからです。
(d)しかしながら、訴訟の手続とは別に、“相互侵害”を当事者同士で和解の材料として利用することは可能です。
(e)特許の業界で現在話題になっているのは、自らは発明を実施しないのに盛んに他者に対して特許権を行使する事業者(不実施主体或いはパテントトロールと呼ばれることがあります)です。
→不実施主体とは(NPE)
相手方からすると、自らは実施をしないので、当方の特許権を侵害しているはずがなく、それゆえに、事実上の相殺の形で和解することができないので、脅威に感じられるのです。
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