内容 |
@自働債権の意義
(a)二者が互いに同種の債権を持っている場合に、相互に現実に弁済する代わりに相互の債権を対当額だけ消滅させることを相殺といいます。
例えば甲が乙に対して100万円の債権を、乙が甲に対して50万円の債権をそれぞれ有している場合です。
債権は譲渡性があるため、もともと第三者丙が甲に対して有していた債権が乙に譲渡されるなどして、こうした状態になることが考えられます。
こうした場合に、甲が乙に対して取り立てを行い、乙が甲に対して取り立てを行うのは、労力の無駄ですので、特別の事情がある場合(相殺禁止の特約がある場合や、債権が不法行為により生じたものである場合など)を除いて、前述の相殺が認められます。
(b)「相殺」は、債権者甲及び乙の一方の意思表示により、効力を生じます。意思表示をした側(相殺をする側)の債権を自働債権といい、相殺を受ける側の債権を受動債権といいます(→受動債権とは)
A自働債権の内容
(a)知財の分野で良くある事例として、特許出願を前提とした共同開発契約を例に採って説明をします。
・契約によれば、企業である甲が研究機関である乙に対して、ある研究目的について研究経費を支払う代わりに、研究成果に関しては共同で特許出願をする(特許を受ける権利は共有にする)と定めていたとします。
・ところが、甲はある時期から乙に対して研究経費を支払わなくなったとします。
・乙は、甲を相手に研究経費の支払いを求めて提訴しました。
・甲は、乙の研究の一部は契約書に定めた目的を外れているとして、支払い済の研究経費の一部の返還を求める反訴を起こしました。
・甲は、訴訟手続の中で両者の債務の相殺を意思表示をしました。
(b)この場合、相殺の意思表示をしているのは、甲ですから、甲の返還請求権が自働債権であり、乙の未払い研究経費の請求権ということになります。
(c)甲としては、乙からの訴訟を完了させてから、乙に対して返還請求権の訴えを起こすのは紛争が長引いて面倒であり、かつ、取りはぐれる可能性もあるため、相殺という形にするのが有利なのです。
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