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@契約条項のオーバーライドの意義
(a)特許発明又は特許出願中の発明に関しては、特許ライセンスを締結することができるとともに、その内容に関しては、原則として契約当事者の合意により自由に定めることができます(→契約自由の原則とは)。
しかしながら、当事者同士の立場の強さの違いから、単純に当事者の自由に任せるのは不都合である場合があり、また当事者の自由とすることにより、社会の一般的な秩序や社会の一般的な道徳観念に反することがあります。
(b)そこで民法の規定に強行規定を定め(→強行規定とは)、或いは判例上に“公の秩序・善良の風俗”という概念を定めており、これらに反する事柄に関しては、当事者の合意事項として契約書に規定された事柄でも、オーバーライドするようにしています。
(c)強行規定に反していたり、公序良俗に反する契約をオーバーラードすることはある意味で必要であります。
(イ)しかしながら、契約書のうち有効でない部分があるということは、相手方が作成した契約書(案)の内容を理解しようとする者にとって怖い面があります。
(ロ)専門家により作成された契約書であるから、法律的に有効でない部分(強行規定に反する部分)はもともと書いていないであろうと安易に考えると、痛い目に会う可能性があります。専門家は、法律家は法律上ある程度無理な内容でも、相手への牽制などの観点から契約書に織り込む可能性があるからです。
(ハ)相手方が作成した契約書案に、自分に有利な条項と、相手に有利な条項とがあり、一見したところ、バランスが取れているように思える場合でも、実は自分に有利な条項が法律上有効ではなく、結果として自分に一方的に不利であるという可能性もあるのです。
(ハ)従って、契約書に関する法律分野における強行規定を一応把握しておかなければ、契約書の本当の意味内容は理解できないのです。
A契約条項のオーバーライドの内容
(a)強行規定違反
例えば特許法第35条第2項には、「従業者等がした発明について
、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しく特許権を承継させ又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。」と規定されており、これは強行規定です。
研究者ではない、例えば単なる車の運転手との間で特許を受ける権利(特許出願をする権利)などを予め雇用者に譲渡させるような定めの条項を定めても無効となります。
(b)公序良俗違反
公序良俗違反は、契約内容が自分に一方的に不利であると契約締結後に気づいた当事者から主張されるのを見かけますが、裁判所がこれを簡単に認めることはありません。
例えば発明品の実施に行政機関の認可が必要であり、特許ライセンス契約締結後の数年を要しても未だ認可が得られていないのに、契約締結から6月後以降に保証料(実施がされていなくても支払うべき金員)の支払い義務が発生する条項は、公序良俗違反であると当事者が主張した事例があります。
しかしながら、裁判官は、「特許発明の実施を工業的又は商業的に実施するためには更に別の技術情報が必要であることが通常であり、実施許諾者は、特許発明の工業的ないし商業的な利用が困難である場合でも、契約に別段の定めがない限り、瑕疵担保責任を負うことはない。…従って、本件契約の全部または一部が公序良俗であるという被告の主張は、採用することができない。」として、その主張を退けています(平成6年(ワ)第12070号・接触濾材事件)。
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