内容 |
①職務発明の意義
(a)使用者等(使用者・法人・国・地方公共団体)のために働く従業者等(従業者・法人の役員・国家公務員・地方公務員)が発明した場合、その発明が
・その性質上使用者等の業務範囲に属し、
・発明をするに至った行為が使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する
ことを条件として、この発明は職務発明として取り扱われ、
職務発明について従業者等が自己の名義で特許出願をしたときには、使用者等に無償の法定通常実施権が発生し、
また使用者等と従業者等との特約(職務発明規程)により、特許を受ける権利(特許出願をする権利)を使用者等に原始的に取得させたり、特許を受ける権利を使用者等に予約承継させることなどを定めることができます。
(b)従業者等が特許出願した発明が、前述の業務範囲に関する条件・職務に関する条件を満たさないときには、法定通常実施権は発生せず、当該特許出願を使用者等に予約承継させることもできません。
(c)前述の職務に関する条件に関しては、使用者等と従業者等との間で考え方が食い違うことが多いのですが、過去の事件で論点となった一つは、
職務発明がなされたのが勤務時間中でなければならないのかどうか、
或いは勤務場所で行われなければならないのかどうか
です。この点に関してケーススタディします。
②職務発明の事例の内容
[事件の表示]昭和50年(ワ)第1948号
[事件の種類]使用者が特許を受ける権利を有することの確認請求事件(申請認容)
[判決の言い渡し日]昭和54年5月18日
[考案の名称]連続捏和機
[事件の経緯]
(a)本件は退職後の一週間で発明を完成し、その3日後に特許出願に至ったと主張する元従業者(被告乙)と、在職中に発明は完成していた筈であると主張する使用者(原告甲)との間で争いになった事件ですが(その争点に関しては裁判所は使用者等の主張を認めました)、もう一つの発明が勤務時間中になされたかどうかです。
(b)本件では、
・被告は原告である会社の技術部門の長という立場であった
・被告が特許出願した発明の課題は、原告の代表者が従来の技術の問題点として会議で従業員に対して改善を指示していた課題と同じである
・被告はその会議に出席しており、特許出願前のある時期までは、前記課題に応えるための技術開発に積極的に関わっていた
ことなどの事実が裁判において認定されています。しかしながら、特許出願人の発明が完成された時期は厳格には不明であり、まして勤務時間中に発明されたのか(或いは勤務場所で行われたのかどうか)までは判りません。
[裁判所の判断]
(a)発明場所についても、被告の本件発明に関する思索、理論的追求、文献調査等の精神活動のうち相当程度の部分はさきに認定したような原告会社の便宜供与等を背景としてほかならぬ原告会社の勤務時間中になされたと推認すべきである。
(b)一般に発明の職務発明性を肯認するためには、思索等の行為がすべて勤務時間中になされることは必要でない。別紙国家公務員の職務発明に対する補償金支払要領―52特総第1411号昭和52年12月27日―の1条参照。
(c)ことに、本件のように本来その職責上会社で公にしてなすべき事柄をことさらひそかになしたとみられるような場合においては、当該思索等が相当程度勤務時間中になされたと認められるだけでその職務発明性を肯認するに十分であると考える。
(d)また、被告は、本件発明の構成要件および作用効果ことにそのこねまぜ作用が原告会社のテスト機の構成および作用効果と異なることを強調しており、その主張は両者の比較論としては正当な部分を含むけれども、本件においては、テスト機の本件発明(の構成要件)該当性を検討しているわけではないから、その主張のような相違点の存在によって前記認定判断を左右することもできない。
(e)そうすると、被告の本件発明をするに至った行為は原告会社における被告の現在の(但し原告会社在職中の時点からみて現在の)職務に属していたものと解すべきである。
[コメント]
本件では特許出願人である従業者の職務が技術部門の長であるというだけでなく、実際に技術開発に当る部下の指揮・監督をする立場であったため、名実ともに「使用者等における従業者等の現在又は過去の職務」にぴったりと当てはまりました。これに対して、名目的に開発部長であっても、市場開発・販売企画が主たる職務であるときには職務発明に該当しない場合があるます。
→職務発明のケーススタディ3(従業者等の職務)
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