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 No:  1243   

特許出願中のライセンス契約CS3/進歩性/特許出願

 
体系 権利内容
用語

特許出願中のライセンス契約のケーススタディ3

意味  特許出願中のライセンス契約とは、独占権付与の意思である願書及び発明の開示範囲を確定する出願書類の提出が完了しているものの、実体審査などの特許出願の処理の手続が完了していない段階で、締結されるライセンス契約を言います。


内容 @特許出願中のライセンス契約の意義

 特許出願中の発明について実施許諾を求める場合に問題なのは、権利の状態が不安定であることです。

 ライセンスの対象である特許出願がライセンシーによって取り下げられ、或いは取り下げられると、ライセンシーが期待していた特許権による保護につながらず、実施の事業を推進する上で大きな痛手となる可能性があるため、契約書において、ライセンサーがライセンシーの同意を得ずに特許出願の取下・放棄をすることを禁じている場合もあります。

 しかしながらこれとは別に、特許出願の請求の範囲が減縮され、この減縮により、ライセンシーが実施許諾をしようとしていた発明の態様が、特許権の保護範囲から外れてしまうリスクがあります。

 ライセンシーの側から見ると、こうした場合も特許出願が取り去れられ、放棄されたのと同じく、実施の事業を展開する上で不利益となる可能性があります。しかしながら、請求の範囲の減縮に対する対抗措置として、ライセンシー側がすでに支払った実施料の返還請求を求めるようなことは可能でしょうか。そうしたことが争点となった裁判事例を紹介します。

A特許出願中のライセンス契約の事例の内容

 裁判例として、平成18年(ワ)第11429号を挙げます。この事件は、要するに

・特許出願人(原告)が当該出願に係る発明について被告に実施許諾を行い、

・許諾後に記載不備に対する拒絶理由を受けて、請求の範囲を補正し、これにより特許査定を受け、特許権の実施許諾を受けたが、

・補正の事実を被告であるライセンサーに補正の事実を通知していなかったために、

・特許出願中にライセンシーが、ライセンサーに対して以後の実施料の不払いを拒否するとともに契約解除の意思表示をした。

・原告は、被告に対して侵害行為の停止・損害倍賞・未払いの実施料の支払いを求めて提訴した。

 というものです。

 この訴訟において、被告は、侵害の成否を争うとともに、相殺の抗弁として、既納の実施料について不当利得の返還請求を行いました。

{第3次的主張(既払実施料の一部に係る不当利得返還請求権)}

zu

(被告の主張)

 原告による本件補正は特許出願の一部取下げないし放棄とでもいうべき行為である。そして、特許出願の全部が取り下げられた場合ないし放棄された場合、その後は、被告の原告に対する実施料支払義務は消滅すると解すべきであるから、そのこととのバランス上、補正によって特許出願範囲の一部が取り下げられた場合には、被告の原告に対する実施料支払義務は、それ以降、その補正に対応する一部が消滅すると解すべきである。

 したがって、被告は、本件補正書が提出された日の翌日である平成14年2月5日以降は、本件補正に対応した実施料しか支払う義務がなかったにもかかわらず、従前どおりの実施料を支払い続けたのであるから、既払実施料のうち補正に対応した部分については不当利得返還請求権が生じる。

(原告の主張)

 争う。

 ア 被告による実施料の支払は、本件実施契約という法律上の原因に基づいてなされたものであるから、原告が当該実施料を受領したことが不当利得となることはない。少なくとも平成14年3月22日に本件特許権の設定登録がされる以前においては、本件実施契約における「許諾製品」とは、本件補正前の特許請求の範囲の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物よりなる放熱シートと解するほかはない。そうすると、平成14年3月22日以前において、一部を除く被告製品が本件実施契約の「許諾製品」に該当することは明らかであるから、この期間における被告の既払実施料が原告の不当利得となることはあり得ない。

 イ また、本件実施契約4条2項は、被告が原告に対して本件実施契約に基づくものとして任意に支払った実施料については、確定的に原告に帰属するものとし、許諾特許や本件実施契約のその後の帰趨(無効や終了など)によって当該支払の有効性が失われ返還されることがない旨を定めたものである。かかる条項の目的は、いったん支払われた実施料について、後日、その支払の有効性に対する疑義が生じることを防止することにより契約当事者間の法律関係の安定を図ることにある。同条項では、不返還の場合の具体的な例示として、「許諾特許の無効、本契約の解約」が掲げられているが、あくまでも例示であり、いったんなされた支払の不返還が上記の場合に限定されるものでないことは、「その他いかなる理由によっても」被告に返還されないとの文言から明らかである。

 よって、被告が原告に任意に支払った上記期間におけるその他製品の実施料について、原告に不当利得が発生することはない。

zu

[裁判所の判断]

(2) 被告の第3次的主張について

ア 本件実施契約書(甲4)には、以下の定めがあることが認められる。

(ア) 「許諾特許」とは、原告所有の下記の特許出願及びこれに係る特許権並びにその分割又は変更に係る新たな出願に基づく権利をいう。(第2条(1))

 特開平11−209618号(発明の名称:熱伝導性シリコーンゴム組成物及び該組成物よりなる放熱シート)

(イ) 「許諾製品」とは、許諾特許の技術的範囲に属する熱伝導性シリコーンゴム組成物よりなる放熱シートをいう。(第2条(2))

(ウ) 本件実施契約に基づいて被告から原告になされたあらゆる支払は、許諾特許の無効、本件実施契約の解約その他いかなる理由によっても被告に返還されないものとする。(第4条2:以下「不返還条項」という。)

 イ 上記本件実施契約の第2条(1)には、契約締結時点における「許諾特許」として公開公報(特開平11−209618号)が掲げられており、これと並んで「これに係る特許権」と記載されていることからすれば、特許権発生前の「許諾特許」とは、同公開公報の特許請求の範囲に記載された発明を指すものであり、特許権発生後の「許諾特許」とは、発生した特許権に係る特許請求の範囲による特許を指すものと解するのが相当である。

イ 被告は、特許請求の範囲を減縮する本件補正を特許出願の一部取下げと同視し、少なくとも本件補正書の提出日の翌日である平成14年2月5日以降は、被告の本件実施契約に基づく実施料支払義務は、補正に対応して減縮するとも主張する(第3次的主張)。しかしながら、補正によって確定的に減縮の効果が生じるわけではなく、その後の補正によっても変動し得るものであるから、補正を特許出願の一部取下げと同視することはできず、本件補正書の提出日に遡って減縮の効果が生じると解することはできない。

 なお、被告は、特許法29条1項及び2項の判断は「特許出願前」で行っており、補正の効果も特許出願時に遡ることから、本件実施契約においても減縮の効果が遡ると主張する。しかし、本件実施契約において減縮の効果が遡るか否かは契約解釈の問題であって、特許法の解釈とは異なり得るし、実質的に見ても、特許法29条1項及び2項における新規性、進歩性の判断基準時たる「出願時」の解釈と、本件実施契約における減縮の遡及効の問題とは全くの別問題であるから、同列に論じることはできない。

ウ 他方、本件実施契約の「許諾特許」とは、同特許権に係る特許請求の範囲と解すべきであり、本件補正による特許請求の範囲の減縮により、係争物は「許諾製品」に当たらないから、特許権の設定登録日以後に実施料を支払う義務はなかったというべきである。しかしながら、本件実施契約では、原告がいったん受領した実施料は、許諾特許の無効、本件実施契約の解約その他いかなる理由によっても被告に返還されないと定められており(不返還条項)、本件における特許請求の範囲の減縮も、文言上「その他いかなる理由」に含まれる(中略)。

エよって、被告の第3次的主張に係る不当利得返還請求権は、認められない。


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