パテントに関する専門用語
  

 No:  1260   

均等論の第2要件CS1/特許出願

 
体系 権利内容
用語

均等論の第2要件のケーススタディ1

意味  均等論の第2要件とは、相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏することです。


内容 ①均等論の第2要件の意義

(a)均等論とは、特許発明の構成要件の一部を他の要素に置換した発明を、一定の条件の下で均等の範囲と求め、特許権の効力を及ぼすことを認めるものです。

 特許発明の技術的範囲は、特許出願の願書に添付された特許請求の範囲の記載に基づいて定めるべきですが(特許法第70条第1項)、将来の侵害の態様を特許出願人が全て予期して請求の範囲に記載の要件や用語を吟味するのは容易なことでなはく、特許権の請求の範囲の文言に拘泥し過ぎるのは、社会的正義に反する可能性があるからです。

(b)均等論と認める要件の一つが、相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏すること(置換可能性)です。

 従って、特許出願人が明細書に記載した技術的課題や作用効果を参酌して均等論の適用の是非を考慮するべきです。

(c)特に注意なければならないのは、特許発明の構成の真の課題、当該構成に固有の作用効果を把握することです。

 何故なら特許出願人が明細書を記載する段階では、先行技術の全てを把握して記載している訳ではないので、発明の課題等を広くかつ上位概念的に記載する傾向があるからです。明細書に記載した課題などを形式的に把握して、均等論を適用すると、均等の範囲が過剰に広くなってしまう恐れがあるのです。

①均等論の第2要件の事例の内容

[事件の表示]平成9年(ワ)第1147号

[事件の種類]特許権侵害差止等請求事件(請求棄却)

[判決の言い渡し日]平成10年12月14日

[発明の名称]耐風強化瓦



[経緯]

(a)この事件は、発明の目的との関係で均等論の置換可能性を否定し、均等論の主張を退けた事例です。

(b)原告は、耐風強化瓦と称する発明について特許出願を行い、特許第2087769号の特許権の設定登録を受けました(特公平7-113250)。

(c)発明の構成は次の通りです。

・和形系葺き合わせ構造をとる屋根瓦において、

・肩切込部(F)に面する肩縦縁(Fy)寄りの肩横縁(Ft)側から肩隅角部(C)の一部に切込部(2a-d)を形成して、該切込部(2a-d)の外側肩隅角部(C)に瓦本体のほぼ半分以上の厚さの肩隅角突片(1a-d)を形成させ、

・小口切込部(E)に面する小口横縁(Ey)の側端寄りの差込部側縁水返し(6)を含む小口差込部(B)の一部を瓦縦方向に延長させて支持軸部(4a-d)を形成させ、

・該支持軸部(4a-d)を含む小口差込部(B)の小口縦縁(Et)寄りの一部に斜め下流瓦の該肩隅角突片(1a-d)が嵌入して抑止する陥凹部(3a-d)を形成し、

・該支持軸部(4a-d)が斜め下流瓦の該切込部(2a-d)に嵌入する構造とすることを特徴とする耐風強化瓦

(b)発明の目的として特許出願人が明細書に記載した事項は次の通りです。

 次に述べる従来の技術の不都合を解消することである。

(イ)従来技術1の一般的な瓦は、暴風、地震による瓦の移動、浮きを積極的に阻止する措置が全く講じられていない。

(ロ)従来技術2の瓦は、小口切込部いっぱいに形成された閉塞突片を下流隣接瓦の片隅角部が抑えるものであるが、瓦の横方向の振れ止めが一方向のみであるため、外れるおそれがあって、瓦の浮き防止の信頼性も十分ではなく、両横方向への振れ止め措置を採ることが望ましい。

(ハ)従来技術2においては閉塞突片の構造がセメント瓦では十分な寸法精度をもって得られたとしても粘土瓦では焼成過程における変形により実用に供するものが得難い。

(c)作用効果は次の通りです。

・斜め上下に位置する瓦間において、上側瓦の陥凹部3aに下側瓦の肩隅角突片1aが外面側から嵌入して浮きが防止されると同時に、上側瓦の支持軸部4aが下側瓦の切込部2aに嵌入して振れ止めがなされる。したがって、瓦を全面的に葺いた状態において、各瓦が相互に係合し、強風などに対しても、瓦の浮きと振れ防止が強化される。

・斜め上下の瓦相互は、陥凹部3aと肩隅角突片1aとの嵌入及び切込部2aと支持軸部4aとの嵌入を図るだけであるから、屋根葺き作業が容易にしかも端正に行える。

・陥凹部3aは文字通り凹んでいるが、支持軸部4aに連設されており、また肩隅角突片1aも瓦本体のほぼ半分以上の厚さに設定されているので、粘土瓦でも焼成過程で変形し難く、使用時の破損等もよく防止できる。




(e)判決の骨子部分を引用します。

・本件発明の主たる目的は、従来技術の瓦において、瓦の横方向の振れ止めが一方向のみであるため、外れるおそれがあるので、両横方向への振れ止め措置を採ることにあり(本件公報3欄26行ないし29行、41行ないし44行)、本件発明の主要な作用効果は、瓦の両横方向への振れ止めの強化にある。

・本件発明における「切込部2a」は、肩隅角部Cの、瓦の外側にある肩隅角突片1aの先端の線よりも下方に陥凹し、「支持軸部4a」を嵌入する部分であり、「支持軸部4a」は、差込側縁水返し6の延長線上に形成され、その内側の陥凹部を形成する上端線よりも下方に突出し、「切込部2a」に嵌入する部分であって、それぞれ、右の嵌入によって相互を係止し、瓦の両横方向への振れ止めの作用効果を奏する部分であると認められる。

・これに対し、イ号物件は、「支持軸部」を「切込部」に嵌入する構造にはなっておらず、イ号物件には、本件構成要件の「切込部2a」及び「支持軸部4a」に該当する部分は存在しないといわざるをえない。

・またその外の部分にも、イ号物件を重ねて屋根瓦として使用する際に、両横方向の振れ止めを防止する役割を果たすことを目的として構成されていると見られる部分は見当たらない。

・従って、イ号物件においては、「切込部2a」及び「支持軸部4a」がないことから、本件発明の目的であり、その主たる作用効果と認められる瓦の両横方向の振れ止め防止の十分な作用効果は期待できないと認められる。…前記の均等の第2要件を充たさない。

[コメント]

 明細書には、一般的な瓦、直近の瓦をそれぞれ紹介して、それらの不都合(イ)?(ハ)を挙げていますが、前述の通り、特許出願人が明細書に記載した課題の全てを均等論の判断の基礎とすると不当に均等の範囲を広げることになる可能性があります。

 そこで裁判所は、直近の瓦が有する不利益のさらに一部に着目して、これを解決することを本件発明の“主たる目的”と認定したのです。


留意点

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