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@均等論の第3要件の意義
(a)均等論とは、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張する解釈論です。
(b)均等論は、Doctrine of Equivalenceという名前で外国において提唱され、次に我が国に導入された概念です。
(c)特許出願人が将来の侵害の態様の全てを予測して請求の範囲を作成することは極めて難しく、安易な模倣を認めるのは社会的正義に悖る、という理由で均等論が認められています。
もっとも、均等論の考え方は、特許出願の願書に添付された請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を定めなければならない、という原則(特許法第70条第1項)に対する例外となるため、均等の範囲を妄りに求めることは法的安定性を害します。
故に特許発明の均等の範囲をどの程度に認めるのかは慎重に考慮する必要があります。
均等論では、発明の構成要件の一部を他の要素と置き換えるという手法をとりますが、その置き換えにより、発明の作用・効果が変化してしまうようなことは論外であり、均等を認める余地は全くありません。
置換をしても同一の作用・効果を奏する結果として置換が可能であること(置換可能性)が必要ですが、たとえ置換により同一の作用・効果を奏するとしても、その置換が当業者にとって予想し難いものである場合には、均等論を認めてしまうと特許権の効力範囲が過剰に不安定となり、第三者にとって不測の不利益を与える可能性があります。そうしたケースを想定して検討します。
A均等論の第3要件の必要性
(a)例えば有名な特許の一例として、エジソンの“電気ランプの改良”の発明に対して付与された米国特許第223,898号のクレームを紹介します。
“1.An electric lamp for giving light by incandescence,
consisting of a filament of carbon of high resistance, made as
described, and secured to metallic wires, as set forth.
2.The
combination of carbon filaments with a receiver made of entirely of
glass and conductors passing through the glass, and from which
receiver the air is exhausted, for the purposes set forth.”
“1.金属製ワイヤーに固定された、既述の通りの大きな抵抗を有するカーボン製のフィラメントを含む、白熱式発光用電気ランプ。”
2.カーボン製フィラメントと、全体としてガラスで形成された容器と、そのガラスを貫通する導線との組み合わせであり、所定の目的のために容器からエアを排気してなるフィラメントと容器と導線との組み合わせ。(以下省略)”
(b)前記クレーム中でフィラメントを収納する容器をガラス製としています。この容器の働き(作用)は、
・内部を真空とすることができる程度の強度を発揮できることと、
・フィラメントが発する光を透過すること(透光性)
であると思われます。こうした作用を有する材料は、当時としてはガラスしか思い浮かばなかったかもしれませんが、特許出願をした後にそういう新素材が出現する可能性を考えれば限定しすぎです。フィラメントを固定するワイヤーを金属製と限定したことに関しても同様です。特許出願人による発明の過剰な限定に対する救済手段として均等論が存在します。
しかしながら、フィラメントをカーボン製に限定したことに関してはどうでしょうか。資料によると、エジソンはフィラメントの素材の選択には散々苦労をしたと伝えられます。また明細書に記載した“電気ランプの改良”という名称から解る通り、白熱式電気ランプにはエジソンが特許出願した時点で先行技術が存在し、エジソンの特許は、実用的な白熱式電気ランプの発明として高い評価を受けたのです。
そうした事情を考えると、フィラメントの素材を他に置換することが当業者にとって容易か否かは慎重に見極めないと、当業者が不測の不利益を被る可能性があります。
すなわち、この特許出願の内容を基礎として、第三者がより優れた改良発明を第三者が成し遂げたときに、それが均等発明とされ、実施できなくなる可能性があるからです。
そうした理由から均等論の第3要件(置換容易性)が重要となります。
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