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@均等論の第3要件の意義
(a)特許発明の技術的範囲は、願書(特許出願の願書を言う)に添付した請求の範囲の記載により定められます(特許法第70条第1項)。
しかしながら、発明を文章で表すのは難しく、特許発明と実質的に同一な発明の第三者による実施を放置すると、特許出願人が開示した発明を開示する代償として独占排他権を付与するという、特許制度の趣旨に悖るおそれがあります。
そこで特許権者を救済するため、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張する解釈論である均等論が提唱されています。
(b)均等論の要件の一つとして、相違部分を対象製品等におけるものと置き換えることが、対象製品等の製造等の時点において容易に想到できたこと(置換容易性)が挙げられます。
(c) ボールスプライン事件において、第一審は、置換対象(取付手段)の判断の基準点を「本件発明の特許出願当時」としており、これは原告の主張であるとともに当時の通説でもありました。
均等論を容認した第二審でも判断時期に関しては同様に「特許出願当時」としていました。
ところが、最高裁判所においては、一転して置換の容易性の規準時を「対象製品等の製造時」とし、侵害行為の時という見解を示したのです。
@均等論の第3要件の判断時期の内容
(a)特許出願時を置換容易性の判断時とする説の根拠は次の通りです。
・特許請求の範囲を記載するのは特許出願人の責務であるが、発明の保護範囲の広さは、新規性・進歩性との兼ね合いで判断されるべきものであり、これらの要件の特許出願時だから、均等の範囲も特許出願の時によるべきである。
・特許出願時に置換技術を容易に想到できるのであれば、予め当該技術を明細書に記載しておけばよく、それをしなかった特許出願人(特許権者)の落ち度を顧みずに、特許請求の範囲の拡張解釈を求めるのは、妥当ではない。
(b)しかしながら、ボールスプライン事件で最高裁判所は、特許出願人に完全な明細書を記載することを求めるのは無理であり、むしろ模倣を奨励することになりかねないとして、侵害時説を採用しました。
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