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@均等論の第4要件の意義
(a)均等論とは、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張する解釈論です。
均等論は、米国の裁判例から導入された概念であり、多くの裁判で均等論の可否が論ぜられてきましたが、その要件が判例(最高裁の判決)として確定したのは、ボールスプライン事件においてです。
(b)特許出願に対して設定登録が行われると、特許権が発生しますが、その特許発明の技術的範囲は、当該特許出願の願書に添付された特許請求の範囲の記載に基づいて定めるのが原則です。
従って、当該請求の範囲に記載した要件と異なる部分を含む製品・方法については、特許発明の技術的範囲から除外されるというのが基本的な考え方です。
しかしながら、特許出願人が将来のあらゆる侵害態様を予想して特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、特許発明の構成要件の一部が別の事柄に置き換えられることで簡単に特許発明の技術的範囲から逃れられるとすれば、発明意欲の減退につながり、特許制度の趣旨に悖ることになるおそれがあります。
ボールスプライン事件の第2審は、置換しようとする要素に顕著な効果が生ずるなどの格別の技術的意義を生じず(本質的要件でないことに相当)、かつ置換可能性、置換容易性を担保するときには、前記原則の例外として、要件を置換した係争物は特許発明の技術的範囲に属するべきであると判示しました。
この3つの要件は、要件を置き換えた発明が特許発明と実質的に同一であるための条件、換言すれば均等論を積極的に認めるための条件であり、均等論の積極的要件と言われることがあります(→均等論の積極的要件とは)
ボールスプライン事件において、最高裁は、均等論の意義を認めつつ、特許権の拡張解釈を許すのには、前述の積極的要件だけでは足りないと考えました。
“特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者が右出願時に容易に遂行することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法第29条)、特許発明の技術的範囲に属するものということができない。”からであります。
これを均等論の第4要件と言います。最高裁判所は、この他に、“対象製品が特許出願の手続において特許請求の範囲から意図的に除外されたものであるなどの特段の事情がないこと”(均等論の第5条件)を挙げました。これらを均等論の消極的要件ということがあります。
そして最高裁は原審が第4要件を考慮していないことを理由に審理を差し戻しました。
具体的にどういう技術的事項を争ったのかに関しては、下記を参照して下さい。
→均等論の第4要件のケーススタディ1
A均等論の第4要件の内容
(a)均等論の第4要件の立証責任が特許権者側にあるのか侵害者と目される側にあるのかについては争いがあります。
ボールスプライン事件後の下級審判決では、立証責任は後者(被告)にあるというものが多いです。
→均等論の第4要件の立証責任
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