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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1265   

均等論の第5要件/特許出願/禁反言/新規性

 
体系 権利内容
用語

均等論の第5要件

意味  均等論の第5要件とは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないことです。


内容 @均等論の第5要件の意義

(a)均等論とは、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張する解釈論です。

 要するに、特許発明の構成要件の一部を他の要素に置き換えることが所定の条件を満たす場合には、要件を置き換えられた対象(物・方法)を特許発明の技術的範囲に属するものとするという考え方です。

(b)特許発明の技術的範囲は、願書(特許出願の願書をいう)に添付された請求の範囲の記載により定めるのが大原則ですが、特許出願の段階で将来の侵害の態様を全て予測することは困難であり、特許発明と実質的に同一の発明の第三者による実施を放置することは特許制度の趣旨(特許出願人が開示した新規な発明を公開する代償として独占排他権を与えるという趣旨)に悖るおそれがあるため、例外的に均等論を認めるというのが裁判所の考え方であります。

(なお、例外的に均等論を認めるという言い回しはボールスプライン事件の第二審判決文に現れるもので、これを是とするか否かは意見が分かれます)。

(c)ボールスプライン事件の最高裁で均等論を適用するための5つの要件が示されたのですが、このうちの第1要件(置換対象が本質的事項でないこと)、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)は、積極的要件と言われます。

 これらはボールスプライン事件以前から、均等論を認めるのであれば、これらの要件が必要であろうと言われていたことであり、目新しいものではありません。

 ボールスプライン事件の最高裁判決の意義は、均等論を認めるためには、前述の積極的要件の他に、消極的要件と言われる第4要件(特許出願前に公知であった技術およびこれから容易に推考できる技術でないこと)及び第5要件が必要であることです。なお最高裁は、原審判決が第4要件について考慮していないとして、審理を差し戻しました。

(d)均等論の第5条件が採用された理由について、最高裁判所は次のように説明しています。

 「特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解される行動をとったものについて、特許権者がこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されない」

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A均等論の第5要件の内容

(a)特別の事情の第一は、特許出願人が置換対象を意識的に請求の範囲から除外していた場合です。

 典型的なのは、特許出願時の明細書に、特定の用語を定義し、その中で「●●とは、…の意味を言い、△を除く。」と記載していることです。明細書は、請求の範囲の解説欄という役割を有しているからです。

 こうした定義がなくても、明細書の文脈から置換対象が保護範囲から意識的に除外されていると理解できる場合があります。例えば“垂直”という用語について、特段の事情がなければ“垂直に近い”ものを均等に含めて解釈できる場合であっても、作用・効果の点から厳密に“垂直”でなければ所定の効果を発揮できないのであれば、そうでないものは除外されていると解釈できます。もっとも、置換により特許発明の固有の作用・効果を発揮できなくなる場合には、均等論の第2要件(置換可能性)を満たさないと判断すれば足りることが多いと考えられます(→均等論の第2要件とは)。

(b)特別の事情の第二は、包袋禁反言の原則に反する場合です(→包袋禁反言の原則とは)。

(イ)例えば特許出願が行われた段階では請求の範囲から除外されていなくても、実体審査において拒絶理由通知に接した特許出願人が請求の範囲を減縮したような場合です。

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(ロ)例えば要件A+B+(c1 or c2)からなる発明が特許出願時の請求の範囲に記載されており、審査段階で要件A+B+c2からなる先行技術が発見され、これに対して新規性(および進歩性)を担保するために、特許出願人が請求の範囲を要件A+B+c1に限定した場合が該当します。

 この場合には、先行発明(A+B+c2)を回避するという特許出願人の意思が明確であり、回避しよう範囲と請求の範囲が削除された部分とが一致しているので、この結論に対して異論はないものと考えられます。

(ハ)しかしながら、限定の仕方によっては、特許出願人が補正により削除した部分に関して均等論が全く認められないのかどうかを巡って、争いを生じる可能性があります。

 例えば“部材Xを回転自在に支承する”という要件が特許出願時の請求の範囲が記載されており、部材Xを僅かに回転可能に支承する先行技術が引用文献に引かれたため、これに対して特許出願当初の明細書の発明の詳細に開示されていた“部材Xを360度回転自在に支承する” という記載に準拠して、特許出願人が当該箇所を限定補正したような場合が該当します。
均等論の第5要件のケーススタディ1

 特許出願人(特許権者の立場)としては、“補正を全く自由にできるのであれば360回転自在のような過剰な補正はしなかった。新規事項追加禁止の制限があるからやむを得ずそのように補正したのであり、360度に近い範囲を除外する意図は全くなかった。”という言い分があるからです(その主張が裁判で認められるか否かは別の問題ですが)。

(ニ)審査において、審査官が記載不備(ある構成要件は不明確であるなど)の拒絶理由通知を発し、これに対して特許出願人が記載不備を回避するために要件を限定したような場合も、どの程度の範囲で禁反言により均等論の適用が制限されるのかが問題となります
→均等論の第5要件のケーススタディ3

(c)特別の事情として、当事者が主張することがあるのが独自開発の抗弁です。しかしながら、判例は、独自開発の抗弁を均等論の第5要件の成否に直結する要素と認めることには否定的です。
均等論の第5要件のケーススタディ2


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