内容 |
①差止請求権の意義
(a)特許法(実用新案法)は、発明(考案)を奨励し、発明(考案)の保護及び利用を図ることにより産業の発達を図ることを目的として、特許出願(実用新案登録出願)をした者に対して新規性・進歩性などの要件を審査した上で独占排他権を付与する代わりに、その発明(考案)を社会に公開します。
(b)独占排他権である特許権(実用新案権)を有する者は、業として特許発明(登録実用辛酸)を実施するおそれがある他者に対して、当該行為の予防を請求できます。しかしながら、“おそれ”というのはどの程度のものかが問題となります。
過去の実施が“侵害のおそれ”の判断に考慮される場合があります。そうした事例を紹介します。
②差止請求権の事例の内容
[事件の表示]昭和37年(ワ)第3776号 ・ 昭和37(ワ)867号
[事件の種類]実用新案権侵害予防等請求事件
[判決の言い渡し日]昭和43年 6月19日
[考案の名称]自動ジグザグミシンの変速機
[経緯]
(a)原告は、前記発明について昭和三二年六月一七日に実用新案登録出願を行い、昭和三五年一月三〇日に出願公告を受け、登録番号第五二五二八四号の実用新案権を有する。
なお、この当時は特許出願と同様に実用新案登録出願についても審査官による一応の審査が終了した段階で出願公告が行われ、この時点から仮保護の権利という実用新案権(特許権)同様の独占排他権が付与されていた。そして当該実用新案登録出願(特許出願)に対して異議申立がなければ実用新案権(特許権)設定登録が行われる。
(b)実用新案登録請求の範囲に記載された考案の要旨は次の通りである。
(イ)主動軸(回転軸(3))に、ウォームギヤー(4)と直径を異にする歯輪(5)(6)とを、軸(3)と共動するように装着し、
(ロ)上軸(1)のウォーム(2)に、主動軸のウォームギヤー(4)を噛み合わせ、
(ハ)歯輪(5)(6)に噛合するよう模様カム(18)を固定した軸に受動クラッチ付歯輪(8)(9)を空転するように装着し、
(ニ)従動軸(カム軸(7))には、軸心方向にだけ摺動し軸(7)とともに回動するクラッチ(10)を、受動クラッチ(8)(9)のいずれかに選択噛合させ得るよう装着して
成る自動ジグザグミシンの変速機。
(c)〈証拠〉によると、本件実用新案の実施品は、前記構造により(上軸とカム軸との間に歯車式変速装置を具え、摺動クラッチによって)、二段変速を行ない。一個の模様カムで二種の模様を作出し得る作用効果を有することが認められる。
他方、〈証拠〉によると、被告が所有する本件対象物に関して次のことが認められる。
・二段変速を行ない、一個の模様カムで二種の模様を作出し得る作用効果を有すること。
・本件実用新案の実施物は直線縫の際受動クラッチ歯輪が空転するのに反し、本件対象物は直線縫の際同歯輪は停止していること。
・本件実用新案の実施物における直線縫の際の前記歯輪空転による影響、すなわち騒音・摩耗は微細なものであって使用上取るに足りないものであること。
(d)本件実用新案の実施物の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)と本件対象物の対応要件とは、クラッチが主動軸に装置されている(本件対象物)か、従動軸に装置されているかの差異があるほか同一である。縫ミシンの変速機におけるこの差異、すなわちクラッチが主動軸に装置されたものが、もし前記登録請求の範囲の記載、つまり本件実用新案の構成要件標識に包含されるものと解釈されるならば、本件対象物は本件実用新案の要件標識全部をことごとく具備しているものというべきであって、本件実用新案の権利範囲に属するものといわねばならない。
すなわち、クラッチが主動軸に装置されているものは、それが従動軸に装置されているものと同一の作用効果を有するものであるから、前者は後者と技術的に均等であるというべきである。
→均等論とは
(e)差止請求の可否について
被告が現に本件対象物を装置するミシンを製造、譲渡している事実を認めるに足りる証拠はない。
しかし、被告はかつて製造、譲渡しており、かつ現に本件対象物が本件実用新案の権利範囲に属することを争っているものであるから、将来これを製造、譲渡するおそれがあるものと事実上推定される。
被告がその譲渡等のため展示することを認めるに足りる証拠はない。
被告がその製品、半製品および本件対象物を製造する設備を現に保有することを認め得る資料はない。
本件対象物を装置したミシンの製造、譲渡の差止めを求める請求は理由があるものというべく、その余の差止請求は理由がない。
|