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@事業の準備の意義
(a)先使用権は、特許権に対する抗弁権の一種であり、他人の特許出願前に当該出願の内容を知らないで自分の発明をした者又はその者から発明を知得した者が当該特許出願前から発明の実施である事業又はその準備をしていた場合には、特許権の効力を排して、その実施をしている発明及び事業の目的の範囲内で当該発明を業として実施できる権利です(特許法第79条)。
(b)こうした権利を認める理由の一つは、特許出願の発明を真似したのではなく、これとは別ルートで発明を知得した者に関しては、特許権の効力により発明の実施である事業の設備が使用不可能となり、荒廃することは酷に失するとともに、産業の発達を推進する立場からも好ましくないということです。
(c)注目するべきなのは、「発明の実施である事業」だけでなく、実施の準備に基づいて先使用権を主張することも認めていることです。
例えば発明の実施である事業を行うための工場を建設している途中であったり、工場建設用の敷地を購入したような場合です。工場の建設に着手したり、土地を購入するために は相当の資金を使っている筈であり、実施化に向けて後戻りのできない段階に入っていると見るのが相当だからです。
(d)ここでは工場の建設や敷地の購入より少し前の段階として試作機の製作について言及します。
A事業の準備の事例の内容
[事件の表示]昭和41年(ワ)第7337号
[判決日]昭和48年5月28日
[発明の名称]精穀機
[事件の経緯]
この事件は、精穀機につき、特許出願前に試作機を一台製造販売した事実が認められるとしても、それによって実施の事業又はその準備をしていたとは認め難いとして、先使用権の成立を否定した事件です。
[コメント]
試作機を一台製造・販売したことを示す証拠だけでは、事業の準備と認めるには足りないとした事例です。
一台の試作機を製作したものの、競合製品との性能の比較や、製作上の問題点やコストの問題などから、事業化には至らないという場合も考えられるからです。
例えば大金を投じて幾度も試作を繰り返し、実用化までもう一歩の段階まで漕ぎ着けていたのでしたら話は違っていた可能性があると思料します。この事例を見て“試作は事業の準備には該当しない。”と決めつけるのはないと思います。
なお、類似の段階の事例として、設計図面を作成しただけでは、事業の準備とは言えないと判示した事例があります。
→事業の準備のケーススタディ2
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