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@全ての実質的権利の意義
(a)特許出願人に対して特許が設定されると、米国内で特許発明を第三者が製造し、使用し、或いは販売することを禁止する権利が与えられ、そして特許出願人は、特許保有者(patent
holder)としての地位を取得します。
(b)特許保有者は、それらの権利を自ら行使することもできますが、排他的ライセンスを他人に許諾することにより、それらの権利を実質的に移転することもできます。
(c)そして特許に対する全ての実質的な権利が排他的ライセンシーに移転されたときには、当該排他的ライセンサーは、自らの名により、特許侵害訴訟を提起することができるようになります。
(d)しかしながら、特許保有者に、特許が対象とする技術分野の一部でも、特許に対する実質的な権利が残されている場合には、“全ての実質的な権利”が排他的ライセンサーに移転されたことになりません。そのように判断された事例を紹介します。
A全ての実質的な権利の事例の内容
[事件の表示]Alps South, LLC v. Ohio Willow
Wood Co., 2013-1452-1488
[事件の種類]特許侵害事件(控訴審・請求棄却)
[発明の名称]ゼラチン状エラストマー合成物及び製品
[事件の経緯]
(a)CHEN
JOHNは、“ゼラチン状エラストマー合成物及び製品”と称する自分の発明について特許出願を行い、そして2003年04月22日に特許権を取得した(US6552109)。
(b)この発明は足の切断箇所と義足(prosthetic limb)との間に適用されるジェルに関するものである。
(c)発明者は、特許を取得した後に、当該特許を自ら設立した会社AEIに譲渡した。
(d)2008年8月31日、Alpsは、本件特許(109号特許)を含む多数のAEIの特許群に関してAEIとの間にライセンス契約を締結した。
(e)2008年9月23日、Alpsは、共同原告(co-plaintiff)として特許保有者であるAEIの名前を挙げることなく(without
naming)、OWWに対して特許侵害訴訟を提起した。
これに対して、OWWはAlpsの訴えは原告としての適格(standing)を欠く旨の動議を提出した。
(f)2010年1月28日、AlpsとAEIとは、Alpsに対する権利の制限を削除した再度のライセンスを締結した。このライセンスは、訴訟の開始から16月を経過した後に締結されたものであるのにも関わらず、元のライセンスの締結時(2008年8月31日)に効力が遡る旨の合意(nunc
and tunc agreements)を含んでいた。
(g)地方裁判所は、原告適格に関するOWWの動議を却下した。その理由は、提訴後の合意(post-filing
agreement)による当事者適格の欠陥の治癒を禁止する、判例上の拘束力(binding
authority)が見当たらないというのである。
そして地方裁判所は、本件特許が有効であり侵害されていると判示した。
〔控訴裁判所の判断〕
(a)控訴裁判所は、最初のライセンス契約が本件特許に対する全ての実質的な権利をAlpsに与えているか否かについて次のように判断しました。
(イ)特許に対する全ての実質的な権利を譲り受けた排他的ライセンシーが、特許保有者を訴訟に加えることなく、自らの名において、侵害訴訟を提起することができる、と判示した判決として次のものがある。
・International Gamco, Inc. v. Multimedia Games, 504 F.3d 1273
(特許保有者によって全ての実質的な権利を譲渡されたときには)“譲り受け人は、特許権者として自らの名前で当事者適格を有する。”
・Propat Int’l Corp. v. RPost, Inc., 473 F.3d 1187, 1191
“全ての実質的権利を有するライセンシーは有効は譲り受け人である。”
・Speedplay, Inc.v v. Bebop,
Inc. & Prima Tek, II, L.L.C. v. A-Roo Co. 211 F.3d 1245
“全ての実質的権利を許諾された事業者は、それらの権利の移転を当事者がどのように特徴付けたに関わらず、そのownerであると認められる。”
(ロ)OWWは、最初にAlps
とAEIとのオリジナルのライセンスは本件特許の全ての実質的な権利をAlpsに移すものではないと主張していた。
他方、Alpsは、{他人の実施を}排除する権利と、自らの管理下で自らの費用負担で訴える権利とを言うsるうから、全ての実質的な権利を有していると主張した。
(ハ)排他的なライセンスが、{全ての実質的な}権利の譲渡に否定的(tantamount
to)であるかどうかを決定するに際して、我々は、ライセンス契約の当事者の意図に留意し、かつ何に対してライセンスが許諾されたのかを調べなければならない。
ALFRED E. MANN FOUN. FOR SCI. v. COCHLEAR CORP. 604 F.3d 1354
(ニ)オリジナルの合意は、本件特許を含む多数のクレームをカバーしていた。
この合意は、Alpsに権利を執行(enforce)することを許諾するとともに、当該執行に関して必要によりAEIが協力する義務を定めていた。
この協力義務は、Alpsがその名前において特許権を執行できるように、(特許権のオーナーシップを譲渡することなく)訴える権利をAlpsに移行することを含む。
(ホ)しかしながら、オリジナルの合意は、重要な態様でAlpsの権利を制限しており、かつある権利をAEI自身に残すようにしていた。
例えば、オリジナルの合意は、Alpsが事前のAEIの書面での合意によらないで、侵害事件を決着させることを禁止していた。
またAEIは、Alpsが侵害の疑いのある第三者の行為を知っていてから6月以内に訴訟を提起しない場合に、自らが提訴する権利を有していた。
さらに重要なことに、ライセンスの合意は、Alpsの権利を“特定の分野で用いること”(particular field of
use)ののために本件特許にカバーされる製品(ライセンス製品)を開発し、製造し、使用し、販売し、販売の申し出をし、拡販し、貸与し、輸入することに限定していた。
・“分野”とは、補綴製品を意味する。
・“ライセンス製品”とは、補綴用ライナー、サスペンションスリーブ、膝用ブレース、その他前述の分野に関連するヘルスケアジェル製品であって、別紙の特許リストに開催された有効な特許に関するもの
(ホ)Alpsは、原告適格適格を確立するため、{第三者を}排除する権利及び訴える権利を受けたことを根拠に上げている。しかしながら、このライセンスは、これらの権利をある分野での使用(field
of use)に限定しているから、最終結果(end
result)として、AEIは、当該分野以外の全ての領域において、本件特許によりカバーされる製品を
製造し、使用し、販売する排他的権利を保有しているのである。
(ヘ)先例(Precedent)は、オリジナルの合意における使用分野の制限(field of use
restriction)が自らの原告適格に関するAlpsの主張に対して致命的(fatal)であることを示している。
最高裁は、ライセンスが権利の分割されていない一部(an divided
part/持分)を許可しているに過ぎないときには、排他的ライセンサーは、特許の保有者が加わることなしに侵害訴訟を提訴することができないと長い間に亘って認識している。
Waterman v. Mackenzie 138 U.S. 252,255
さらに近年では、International
Gamco事件において、我々は、使用分野の制限付きのライセンスがライセンサー自身の名前で訴えの適格を有すると旨の所見(finding)には問題があると説明した。すなわち、侵害者が一つの侵害事実について複数の訴訟を受け、複数の負債(liability)を被るおそれがあるのである。
従って我々は次のように結論する。我々の適格性管轄(standing
jurisdiction)は、全ての実施的権利を伴わない排他的ライセンス(例えば使用制限付きライセンス)では、訴訟の開始時点で特許権者が加わらなければならない。
A123 Systems, Inc. v. Hydro-Quebec 626 F.3d 1213, 1217
我々の判例法は、使用分野付きのライセンスについて明確なルールを確立した。
本件のライセンスは、本件特許のAlpsの権利を特定の分野に制限しているから、AEIを共同原告とせずに訴を提起したは、原告適格を有しない。
(b)控訴裁判所は、遡及的ライセンスにより適格の欠陥が解消されるか否かについて次のように判断しました。
遡及的ライセンスにより原告適格の欠陥を解消することはできない。 →遡及的ライセンス(Retroactive
License)のケーススタディ1
(c)結論 原判決は誤りが含み、従って取り消される。
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