内容 |
①ダウバートスタンダード(Daubert standard)の意義
(a)ダウバートスタンダードは、科学的な事柄に関する専門家証人の証言に関して証拠としての受け入れ可能性を次の要素により判断します。
(i)専門家が依拠した理論や技術が検証可能(testable)か,あるいは検証されているものか?;
(ii)当該理論又は技術が公表され同業者による再検討 (subject to peer review)を受けているか否か?;
(iii)知られた又は潜在的に知られた,当該理論又は技術の誤差の(誤りの)確率;及び
(iv)
当該理論又は技術はその科学コミュニティで一般的に受け入れられているか?
(b)この基準が採用される前は、
“科学的コミュニティにおいておおよそ受け入れた(generally accepted)理論の結果”であるか否かというテスト(Frye
test)をクリアした科学的な証拠は、裁判所によって受け入れらていました。
ダウバートスタンダードが採用されることにより、学会でおおよそ受け入れられた理論の結果であっても、検証可能でないものなどは、証拠として排除されることになります。
特許訴訟において実際に検証可能性を欠くとして証拠が排除された事例を紹介します。
②ダウバートスタンダード(Daubert standard)の事例の内容
[事件の表示]MEMC ELECTRONIC
MATERIALS, INC.,v. MITSUBISHI MATERIALS SILICON CORPORATION
2006-1305,-1326
[事件の種類]特許侵害事件(控訴審・請求棄却)
[発明の名称]欠陥濃度が低い正孔支配型シリコン
[事件の経緯]
(a)MEMC
は“欠陥濃度が低い正孔支配(vacancy
dominated)シリコン”と称する発明の特許出願の譲受人であり、特許権を取得した後に、SUMCO (MITSUBISHI
MATERIALS ORGANIZATION)を特許侵害で訴えました。
(b)具体的には、MEMCは、SUMCOが本件特許を誘導侵害(induced
infringement)していると申し立て、これに対して、SUMCOは、特許非侵害及び特許無効の積極的抗弁(affirmative
defense)を行いました。 →誘導侵害(induced infringement)とは
→積極的抗弁(affirmative defense)とは
(c)本ケースの差戻し審において、トライアルコートは、略式判決を求める前記クロスモーションに対し、まず実施可能性(enablement)を欠く特許出願が許可されたこと及び進歩性を欠如していることを理由として特許が無効であると判示しました。
また、侵害に関して、MEMC側の専門家レポート及び証言を排除するべきであること及び本件特許を侵害していないことの略式判決を求めるSUMCOの申し立てを認めました。
[控訴裁判所の判断]
(a)ダウバート判決及び規則702によれば、専門家意見の証拠は、裁判所にとって信頼可能でありかつ関連ある(reliable and
relevant)ものでなければならない。Mule’Stagnoによって行われたさまざまなテストは、シリコンウエハーの欠陥を調べるために業界で一般的に行われる方法であるが、記録によれば、それらのテストの結果は、クレームの限定要件が全て満たされていることを証明できない。すなわち、Mule’Stagnoは、スタンダードなテストの方法論にある程度の修正を加えており、トライアルコートは、その修正がテストを信用できないものにしていると結論した。記録はその結論を支持している。
この論点はきわどい(close)ものであるが、我々が敬意を表する見直しのスタンダードによれば、我々は、地方裁判所の結論が裁量権の濫用であるとは言えない。その結論は、Mule’Stagnoの本件侵害に対する専門家レポート及び証言が規則702で要求される信頼可能性及び関連性に関するスタンダードに適合していないということである。
(b)
Mule’Stagnoの専門家レポート及び宣誓書は、トライアルコートから適切に排除されており、そして専門家レポートなしでは、MEMCが依拠する証拠は、侵害の重要事実の真正な争点(genuine
issues of material
fact)について論証するには不十分である。MEMCは、いくつかの記事及びデポジッションの証言においてSUMCOの従業員が自社のウエハーを“欠陥フリー”であり、“純粋なシリコン”製であると言及していると指摘した。MEMCは、さらにSUMCOから得た品質管理データ(同社のウエハーの欠陥が零であることを示すもの)を引用した。しかしながら、これらの証拠の何もが本件特許の次の条件をSUMCOのウエハーが満たしていることを証明していない。
“凝集空孔(agglomerated vacancy)の固有点欠陥(intrinsic point
defect)を実質的に含まない(free of)こと”
なお、トライアルコートは、“実質的に含まない”とは1cm3中の凝集空孔欠陥の数が1000個未満であると解釈している。
従って控訴裁判所は、SUMCOは侵害していない旨の原審の判断を支持する。
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