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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1383   

技術的専門家CS2/特許出願/

 
体系 外国の特許法・特許制度
用語

技術的専門家のケーススタディ2

意味  技術的専門家 (technical expert)とは、米国の専門家証人の規則上、技術的な事柄に関して、知識・技能・経験・訓練又は教育により専門家としての適性を有する者をいいます。


内容 @技術的専門家の意義

(a)技術専門家を含む専門家証人は、事実証人と異なり、自分の意見を言うことができるため、裁判の当事者にとって、その主張を立証するために有利な存在です。

(b)特許侵害訴訟では、技術的思想である発明の解釈が問題となりますので、技術的専門家が様々な場面で登場します。

(c)特に特許出願人が明細書に使用した用語が曖昧であり、その意味に光を照らすために技術的専門家の意見が求められることがあります。

(d)この記事では、特許出願の明細書の補正に含まれる“保持可能な手持ち式(hand-held)の超音波診断用発生器”という言葉が新規事項であるか否かに関して専門家の意見に関して証拠適格性が争われた事例を紹介します。


A技術的専門家の事例の内容

[事件の表示]NEUTRINO DEVELOPMENT CORPORATION v. SONOSITE, INC.,

[事件の種類]特許侵害事件(証人排除の動議に対する略式判決・一部認容一部棄却)

[事件の経緯]

(a)Richard T. Redano は、1997年9月9日に、医療発明(人体の一部についての血行動態の刺激・監視及び薬物伝達の加速の方法及び装置に関する発明)に関して米国に特許出願(08/926209)を行うことで米国特許第5947901号を取得するとともに、その一部継続出願として米国特許出願(09/315867)を行い、特許権(U.S.Pat No. 6221021)を取得しました。

(b)Neutrino Development Corporation(原告)は、前記特許(本件特許)をRedanoから譲り受け、そしてSONOSITE, INC.,(被告)を特許侵害で訴えました。

(c)被告は、抗弁の立証のために7人の証人を立てました。

(d)原告は、全ての証人に対して証人排除の動議、特許侵害の略式判決を求める動議を提出しました。

(e)裁判所は、証人排除の動議を検討し、その一部を認容し、そして本件特許の文言侵害を認める略式判決を出しました。

(f)この記事では、証人の一人であるJoan Bakerの新規事項に関する証言に関する部分を紹介します。

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[当事者の主張]

Neutrino(原告)は、次の理由で証人の意見を証拠として受け入れるべきでないと主張した。

・証人は本件特許の技術分野の“通常のスキルのレベル”に関して専門家の意見を述べるにふさわしくない

・証人は、本件特許に関して当該分野の通常のスキルのレベルを決定し損なった

・証人の意見は断定的(conclusory)であり、ダウバートスタンダードの下で信頼できるファクターにより裏付けられていない


[裁判所の判断]

(a)Bakerの証言は、本件の特許出願に対する補正が新規事項を含んおり、当該特許に不当に組み込まれたものであるか否かに関する(米国特許法第132条)。補正が正当に組み込まれるためには、オリジナルの特許出願により本質的に(inherently)サポートされていなければならない。すなわち、当該技術分野における通常のスキルのレベルに在る者(当業者)が、それを特許出願の時点の開示事項の中に見出し、かつ、そこから発明の主題を汲み取る(determine)ことができなければならない。

(b)この裁判において係属中(at bar)の新規事項の抗弁は、当該技術分野における通常のスキルを有する仮想的な人物(仮想的当業者)が本件特許出願{の内容}を解釈して、その結果、クレームされた発明が何によって構成されているかを理解できることを要求する。

(c)係争中の特別の論点は、“手で持つタイプの超音波診断用発生器”(the hand-held nature of the ultrasonography generator)をクレームに含む補正が、本件特許出願に本質的に存在するかどうかである。

裁判所は、新規事項に関する決定に必要な関連する技術分野が“医療用超音波装置の設計・検査・製作”であると認めた。法律は、専門家に対して、発明者と同等の“通常のスキルのレベル”からの観点からの意見を求めていない。

 しかしながら、特許を解釈し、“医療用超音波装置の設計・検査・製作”の分野においてクレームされた発明の設計及び要素を理解できることは必要である。

(d) 証人の履歴書によれば、証人は関連する分野での専門家としての資格を有する。証人は、人間工学を考慮した、医療用超音波装置の試作品の設計に関するコンサルティングについて経験がある。これにより、証人は、本件特許出願の装置に関する記載からどういう事柄を理解すれば良いかに関して意見する資格を有する。装置を手で保持することが可能かどうかは正に人間工学の問題である。

(e) Neutrino(原告)は、また証人が“当該技術分野の通常のスキル”のスキルのレベルを適切に解決していないとして、彼女の証言に疑義を呈している。すなわち、証人は“当該技術分野の通常のスキル”のレベルを決定することに失敗しているから、その証言は、{本裁判との}関連性を欠くと主張する。

 判例によると、“当該技術分野の通常のスキルのレベル”を決定するに際して、事実認定者は、下記の事実を含む様々な事柄を考慮するべきである。

・当該技術分野で直面している問題のタイプ

・それらの問題に対する従来の解決策

・技術革新のスピード

・技術の成熟の程度

・当該分野に従事する者の教育のレベル

In re GPAC Inc., 57 F.3d 1573, 1579

 そして原告は、これらの事柄を調査しかつ分析した上でスキルのレベルを確立することを証人が怠っているとして、その証言に反論している。(中略)

 当裁判所は、何が“通常のスキルのレベル”を構成するのかに関する当事者間の不一致は、事実問題として陪審が解決するべきであると思料する。

 ところが原告は、証人が陪審によって評価されるべき事実の基礎を提示していないと非難する。当裁判所はこれに同意しない。

 デポジションにおいて、証人は、本件における通常のスキルを有する者とは“資格認定試験(credentialing examination)によりトレーニングされかつこれに合格した者”であると考えると主張している。

 この証言は、陪審がそれが適当な当該技術分野における通常のスキルのレベルであるかどうかを決定するのに十分な知見である。証人による通常のスキルのレベルの解釈に対して原告が不同意であれば、それは証言の重みの問題として審理されるべきであり、証言自体を受け入れ不可能と取り扱うべきではない。

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(f)原告はさらに、

(1)本件特許の明細書で先行技術として挙げられた全ての文献を証人が考慮していない点、(2)証人が{本件特許出願の開示内容のうち}“超音波発生器”(ultrasound generator)及び“超音波診断用発生器”(ultrasonography generator)という用語を理解していない点、

(3)証人が{本件特許出願の明細書に先行技術として掲げられた}Pohl特許のうちの一つの実施例しか考慮していない点、

(4)証人が本件特許の装置を操作するために4つの手を必要すると謝って解釈している点

 から、証人の証言は信頼性を欠くと主張している。

(1)に関して、原告は、証人のレポートが{特許出願人によって掲げられた先行技術の一つである}Gioco特許に言及していないから、彼女の本件特許の評価は不完全であり、ダウバートスタンダードに照らして信頼性がないと主張する。

 判例によれば、特許に組み込まれた先行技術の表示は、その技術内容をそっくり明示的に記載した場合と同様に、{権利解釈上で}有効な(effectively)、当該特許の一部である。

Adv. Display Sys., Inc. v. Kent State Univ., 212 F.3d 1272, 1282

 従って、当該特許明細書中で意味が曖昧な用語を解釈するに際しては、特許に組み込まれた先行技術の中身に光を照らして理解しなければならない。証人の証言に関連する新規事項の問題においては、"ultrasonography generator"という用語の曖昧さに焦点が当たられるべきであり、この点に対して証人がどのように解釈するかが問われることになる。

 証人は、デポジションにおいて、前記Gioco特許を考慮しなかった理由として、それが問題となる装置(ultrasonography generator)のサイズの問題と関係がないからであると述べている。実際に、当該特許は、血管拡張剤を適用して人体にある種の刺激を与える方法を開示しているに過ぎず、当該装置のサイズとは無関係である。

 従って当裁判所は証人が当該特許をレポートから除外したことを適切と評価する。

(2)に関して、原告は、証人が“ultrasound generator”及び“ultrasonography generator”という用語に関して知らないとデポジションにおいて認めたから、これらの用語に関する彼女の証言は無知(uninformed)故の結果であり、信頼するに足りないと主張した。

 しかしながら、証人は、デポジションにおいてこれら2つの用語が超音波の分野において典型的に用いられる用語ではなく、それ自体特別の意味はない理解されると述べている。

 さらに証人は、次のデポジションにおいて、Mr. Redano(特許出願人)がこれらの用語に関して本件特許から独立して共通の用法(common usage)に使用しているか否かは定かでないと述べている。証人のレポート及びデポジションのいずれにおいても、それら二つの用語に対する彼女の理解が不足していること(deficient)を示す情報は存在しない。

 これらの用語の理解に対する証人の理解は、反対尋問を通じて塾考(ripe)されるべき事柄である。

(3)に関して、原告は、証人のレポートがPohl特許のうちの一の実施形態のみに言及していることに反論している。

 原告は、本件の特許出願(継続出願)の基礎出願が、Pohl特許を先行技術として組み込んでいることにより、保持可能な手持ち式(hand-held)の超音波診断用発生器を本質的に開示しているという立場を取っている。

 これに対して証人は、前記基礎出願が手持ち式の超音波診断用発生器を開示していないという立場を取っている。

 原告は、証人がPohl特許の全てを検討していないことを根拠として証人の信頼性に疑義を呈している。

 被告は、被告の疑義は証人の証言の重みの問題として扱われるべきであり、証言自体を受け入れることを否定するべきではないと主張する。当裁判所は、この主張に同意する。ダウバートスタンダードの下で裁判所は、専門家が結論に至るのに採用した方法論に着目するべきであり、その精度に着目するべきではないと考えるからである。

Moore v. Ashland Chem., Inc., 151 F.3d 269, 276 (5th Cir. 1998).証人のレポートは、Pohl特許の幾つかの局面に関して議論しており、特にPohl特許に関連して本件の特許出願人のクレームについて考察している。原告は、本件特許出願及びその基礎出願に記載された超音波診断用発信機と均等な装置であって“手持ち”式のものをPohl特許が開示しているか否かを判断する上で当該特許に対する証人の評価が不十分(deficient)であることを立証していない。従って、当裁判所は、被告が主張する通り、当該特許に対する証人の結論は反対尋問でふかめるべきであり、最初から排除するべきでないと解釈する。

(4)に関して、Neutrino(原告)は、本件特許に開示された装置を操作するために4本の腕が必要である旨のBaker'(ベーカー)の証言の信頼性に疑義を呈する (challenge)ことで争った。原告は、本件特許について優先権が主張されたもともとの“特許出願”を基礎として証人が陳述していることについて反論しているのである。原告は“発明”に着目することが適当であり、当該特許のクレームに着目するべきではないと主張した。

 しかしながら連邦巡回裁判所の判例によれば、“{特許出願人は発明を}書面により開示するべきという要件、並びに当該要件の当然の結果(corollary)としての米国特許法第132条の新規事項禁止要件は、ともに特許出願日においてクレームに記載された発明の主題の完全な保有(full possession)を特許出願人に約束するものである。”TurboCare, 264 F.3d 1118を参照せよ。{判例によれば}新しいクレーム及びその他の追加事項は、もともとの特許出願に おいて裏付けが見出されるべきである。従って、裁判所は、証人が新規事項に対する分析をもともとの特許出願について正しく着目したものと認める。

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[コメント]

(a)本事例は、当事者の一方が提示した技術的専門家の証言の証拠適格性に関して、他方の当事者があの手この手を用いて証拠適格性を否定しようとした事例です。

 証拠適格性の基準を過度に引き上げると、立証責任を負う側の当事者が示す証拠がみな却下され、当該当事者にとって著しく不利となる可能性があります。

 どこで線引きをするのかが重要です。

 本事例では、特許出願の補正の新規事項に関して、“当該技術分野の通常のスキルを有する者”(いわゆる当業者)の認定に関して一方の当事者から技術的専門家の意見が提示されました。

 この証拠に関して、他方の当事者は、いわゆる当業者のスキルの認定に関して考慮すべき事項の一覧を過去の判例から引用して、証人はこうした判例上考慮すべき事柄を分析し、それぞれに評価して当該特許出願の補正が新規事項であるかどうかを判断した訳ではないから、証拠としての適格性に欠ける旨を反論しました。

 しかしながら、特許出願のある技術的事項に関する補正について証言する者は、技術的な専門家(科学技術に関する専門家)である訳であり、こうした技術者が専門の技術分野だけでなく、特許法の判例情報まで知悉していることは通常ありえないことです。

 そこで裁判所は当該証人の証言の証拠適格を求め、その証拠の重みの評価に関して陪審に委ねるという立場をとりました。

(b)本事例では、“手持ち”タイプの装置が特許出願人が記載した明細書(原明細書)に開示されていたかどうかを巡り、当事者間で争いになりました。

 特許出願の手続の段階では単に一言二言を明細書に書き添えれば済むことを怠ったため、裁判では高額の手数料を支払って、技術的専門家の意見を貰わなければなりません。

 そうした事情を考えると、特許出願前の明細書の作成段階において、発明の内容を煮詰めることが如何に重要であるかが認識されます。



留意点

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