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延長登録の処分の対象となった物への均等論の適用の可否 |
意味 |
延長登録の処分の対象となった物とは、特許発明の対象である物であって、薬事法等の処分を受けることが必要であるために当該特許発明ができなかったときのその物であり、
均等論とは、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張する解釈論です。
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内容 |
①延長登録された特許権への均等論の適用の意義
(a)特許権の存続期間は特許出願の日から20年間を超えないことが原則ですが(特許法第67条第1項)、
他の法律の処分を受ける必要があるために特許発明の実施をすることができない場合には、
特許権の効力が当該処分の対象となった物への特許発明の実施以外にはおよばないことを条件として(特許法68条の2)
特許権の存続期間を延長することが認められています。
(b)従って延長された特許権の効力を解釈するときには、処分の対象となった物の同一性を判断することが必要となります。
特許発明の同一性を判断するときの通常の判断手法として、いわゆる均等論があり、かつての判例では、処分を受けた物の同一性を判断する場合でも均等論の適用を前提としたような考え方が見受けられます。
例えば平成20年(行ケ)第10460号(パシーフカプセル事件)では次のように判示しています。
“特許発明が医薬品に係るものである場合には,その技術的範囲に含まれる実施態様のうち,薬事法所定の承認が与えられた医薬品の「成分」,「分量」及び「構造」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施,及び当該医薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ,延長された特許権の効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,技術的範囲の通常の理解に照らして,当然であるといえる。)。”
しかしながら、その後の判決では、処分を受けた物の同一性に均等論を適用することには否定的です。
②延長登録された特許権への均等論の適用の司法の立場
この点に関して、平成28年(ネ)第10046号(オキサリプラティヌム事件)の判例の一部を紹介します。
“最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁(ボールスプライン事件最判)は、特許発明の技術的範囲における均等の要件として、①特許請求の範囲に記載された構成と、対象製品等と異なる部分が、特許発明の本質的部分ではなく、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき、との五つの要件(以下、上記①ないし⑤の要件を、順次「第1要件」ないし「第5要件」という。)を定めている。そのため、法68条の2の実質同一の範囲を定める場合にも、この要件を適用ないし類推適用することができるか否かが問題となる。
しかし、特許発明の技術的範囲における均等は、特許発明の技術的範囲の外延を画するものであり、法68条の2における、具体的な政令処分を前提として延長登録が認められた特許権の効力範囲における前記実質同一とは、その適用される状況が異なるものであるため、その第1要件ないし第3要件はこれをそのまま適用すると、法68条の2の延長登録された特許権の効力の範囲が広がり過ぎ、相当ではない。
すなわち、本件各処分についてみれば明らかなように、各政令処分によって特定される「物」についての「特許発明の実施」について、第1要件ないし第3要件をそのまま適用して均等の範囲を考えると、それぞれの政令処分の全てが互いの均等物となり、あるいは、それぞれの均等の範囲が特許発明の技術的範囲ないしはその均等の範囲にまで及ぶ可能性があり、法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲としては広がり過ぎることが明らかである。
また、均等の5要件の類推適用についても、仮にこれを類推適用するとすれば、政令処分は、本件各処分のように、特定の医薬品について複数の処分がなされることが多いため、政令処分で特定される具体的な「物」について、それぞれ適切な範囲で一定の広がりを持ち、なおかつ、実質同一の範囲が広がり過ぎないように(例えば、本件各処分にみられるような複数の政令処分について、分量が異なる一部の処分に係る物が実質同一となることはあっても、その全てが互いに実質同一の範囲に含まれることがないように)検討する必要がある。
しかし、まず、第1要件についてみると、このような類推適用のための要件を想定することは困難である。すなわち、第1要件は、政令処分により特定される「物」と対象製品との差異が政令処分により特定される「物」の本質的部分ではないことと類推されるところ、実質同一の範囲が広がり過ぎないように類推適用するためには、政令処分により特定される「物」の本質的部分(特許発明の本質的部分の下位概念に相当するもの)を適切に想定することが必要であると解されるものの、その想定は一般的には困難である。また、第2要件は、政令処分により特定される「物」と対象製品との作用効果の同一性と類推されるところ、これは、実質同一のための必要条件の一つであると考えられるものの、これだけでは実質同一の範囲が広くなり過ぎるため、類推適用のためには、第1要件やその他の要件の考察が必要となり、その想定は困難である。
以上によれば、法68条の2の実質同一の範囲を定める場合には、前記の五つの要件を適用ないし類推適用することはできない。”
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留意点 |
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