内容 |
①国語的な意味では、上位概念とは、別の複数の言葉を含む、より一般的・総称的・抽象的な概念です。しかしながら、進歩性や新規性の判断に“上位概念”という言葉が用いられるときには、当該概念に属するものに共通する構造・属性・性質が必要です。その構造・属性・性質を使用して“自然法則を利用”することで、発明が成立するからです。
②“同族的事項”とは例えば有機化学における同族体(共通の官能基を有する誘導体)などが該当します。“性質”に基づいて総括するとは、例えば“流動性”という概念を以て、気体や液体の上位概念として、“流体”というがごときです。
③何が共通の性質等であるかは、技術常識を以て、特許出願に係る発明の内容に照らして判断します。“表面にエッジ加工を施した金属製の治具”という発明では、“金属”とは「展性、塑性に富み機械工作が可能である」(インターネット辞書より)という性質を有する概念という程度に理解されます。
④引用文献中に下位概念(鉄製の蝶番)が記載されている場合には、その下位概念の性質(工作可能性など)を手掛かりとして、上位概念(金属製の蝶番)を引き出すことができますので、特別な事情(そうした解釈を妨げる記載が明細書中にあるなど)がある場合を除いて、引用文献中に上位概念の発明が記載されていると認定して、新規性や進歩性を否定する根拠とすることができます。
⑤これに対して、引用文献中に上位概念(例えば熱可塑性樹脂)が記載されている場合には、自動的に上位概念に属する下位概念を引き出して、当該下位概念の発明が記載されていると認定することができません。
上位概念が開示されているということは、その概念に属する多数の具体的な物を開示したということではないからです。このように解釈しないと、先行特許出願が開示したアイディアの発明特定事項を下位概念化した発明(いわゆる選択発明)は、全て新規性がないということになり、発明を奨励する趣旨に反するからです。
⑥上位概念と対比される概念として新規性・進歩性審査基準には“形式上又は事実上の選択肢”という言葉があります。
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