内容 |
@新規性や進歩性の判断の基礎となる引用文献においては、複数の技術的事項を一つのグループとして表現している場合があります。そうした表現の一つとして上位概念があります。これは、同族的若しくは同類的な技術的事項を集めて総括した概念又は共通の性質を有する物を総括した概念です。
(イ)総括した概念(上位概念)が開示されても、その概念に含まれる個別的事項が開示されたことにはなりません。
(ロ)例えば「熱可塑性樹脂」という言葉は、ポリエチレンやポリプロピレンなどの材料を包括する概念ですが、後述の事実上の選択肢には該当せず、単にこれらの具体的な材料を包括的に括って表現したものと見るべきではありません。
Aこれに対して形式上又は事実上の選択肢が開示されると、基本的に、その選択肢の個々の事項が公開されたことになります。
(イ)後述のマーカッシュ形式などは、選択肢同士が“類似の性質又は機能”を有しないと、発明の明確性(36条第6項第2号)を欠くことになりますが、その“類似の性質又は機能を”を有するグループを開示している訳ではありません。
(ロ)すなわち、選択肢は単なる例示ではなく、個々の選択肢が発明特定事項です。
B形式の選択肢とは、その形式(記載方法)から一見して選択肢と判るものです。“A又はB”のような択一的記載の他に、マーカッシュ形式の記載(Aは次の物から選択する。a1。a2、a3のの如くです)。
また多数項引用形式であって、他の請求項を択一的に引用した事項が該当します。
〔具体例〕
1.特定の構造を有するエアコン装置
2.風向調節機構を有する請求項1記載のエアコン装置
3.風量調節機構を有する請求項1又は請求項2 記載のエアコン装置
C事実上の選択肢とは、包括的な表現によって、実質的に有限のより具体的な事実を包括的に意図された記載をいいます(新規性・進歩性審査基準)。
(イ)事実上の選択肢かどうかは、請求項の記載の他、明細書及び図面並びに特許出願時の技術常識を考慮して判断します。
(ロ)例えば「炭素数1から10のアルキル基」が該当します。この表現には、特許出願時の技術常識からメチル基やエチル基を含まれることが判っているものとします。
Dもっとも事実上の選択肢として開示されていても新規性を喪失しない可能性もあります。
(イ)進歩性の審査基準によれば、“選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明特定事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう”とされています。
(ロ)引用発明は、発明として完成されているものでなければならないため、化学の分野では、引用文献に開示された一部の選択肢に関して実験例による裏付けがない場合には、文献公知発明と認められない場合があります。
|