内容 |
@当業者が未解決の技術的課題に遭遇したときに、同一又は類似の課題を解決する手段を試みたり、作用・機能が共通する手段に置き換えたり、技術文献中のヒント(示唆)を行うことは、課題解決に至る有力な手法となります。
他方、未解決の課題を解決するために、関連する技術分野に存在する技術の適用を試みることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮ですが、主引用例と副引用例との技術分野が関連すると言って、後者が前者に対して付加或いは置換可能な技術であるという保証はありません。
従って技術分野の関連性のみを過大に評価すると、特許出願に係る発明の進歩性を間違って評価する可能性があります。
A事例1〔平成17年(行ケ)第10717号(有機発光素子用のカプセル封入材としてのシロキサンおよびシロキサン誘導体)事件〕
(イ)審判部が技術分野の共通性を根拠として進歩性を否定した特許出願に関して裁判所が審決を覆した事例です。
(ロ)特許出願の対象は、発光部分が被覆層で覆われる光学要素を含む有機発光素子です。
(ハ)特許出願と主引用例との相違点は、前者では被覆層がシロキサンであるのに対して、後者では被覆層がオーバーコート層であることです。
(ニ)裁判所は次の事情に着目して、主引用例に副引用例(シロキサンを開示するもの)に適用することは容易ではないと判断しました。
・主引用例のオーバーコート層は、光散乱部の凹凸面上に有機発光素子を形成した場合の問題点を避けるため、凹凸を実質的に平坦化する目的のものであること。
・副引用例は、有機発光素子の保護膜として所定方法で成形されることが好ましいとされ、成形方法や膜厚から平坦化に適しないことが伺われること。
B要するに、技術分野の関連性を動機付けとする場合、引用例同士の課題の共通性などは必ずしも必要ないが、各引用例の目的やその目的から導かれる技術要素の属性次第では、他の引用例との組み合わせを阻害する可能性があるということです。
→技術分野の関連性
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