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@発明の利用を図るために、特許法には、“自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定”という制度があります(第92条)。
A技術は、古い発明の上に新しい発明が累積していくことで発展するものですから、改良発明や追加的発明の特許出願が積極的に行われることが期待されます。しかし、折角特許になっても、先願に係る特許権等の存続期間が満了するまで自分の特許発明が実施できなければ宝の持ち腐れであり、特許出願する意欲を削ぐことになります。こうした不都合を回避するために、利用発明の実施を可能とするための裁定制度を設けているのです。
B言い換えると、利用発明の概念は、本質的に特許法92条の裁定制度に結びついており、この裁定制度を導き出すための前提として、利用発明の実施を制限する規定(特許法第72条)を設けていると言っても差し支えありません。
C特許法第92条の裁定制度の前身として、旧特許法(大正10年法)第49条第1項に審判制度の枠でクロスライセンスを認める制度が置かれていました。
同項には、「特許権者は他人の特許発明又は登録実用新案を実施するに非ざれば自己の特許発明を実施すること能わざる場合に於いて…審判を請求することを得。」と規定されていました。
D特許法上の利用発明の概念として思想上の利用発明が含まれるのは異論のないところですが、それだけに限定してよいのかという問題があります。
すなわち、旧特許法第49条の「他人の特許発明…を実施するに非ざれば自己の特許発明を実施すること能わざる場合」とは、思想上の利用関係がある場合に限らない筈であり、現行法でも旧特許法と同様の扱いをするべきではないかと考えられるからです。
Eそこで実施行為不可避説では、思想上の利用発明だけでなく、実施上の利用発明をも、特許法第72条の“利用発明”に含めると同時に同92条の裁定制度の請求の対象としました。
Fここで実施上の利用発明とは、後願の権利内容を実施するに際して先願の権利内容を実施しなければならない発明のうちで理想上の利用関係がないもの、という程度の意味です。
→実施上の利用発明
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