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①特許権の権利範囲を巡っては、権利者は広い保護範囲を主張し勝ちです。
利用関係の場合には、請求項に記載した発明から上位概念を抽出して、その上位概念を用いているときには利用関係であるという主張がしばしば行われます。
しかしながら、特許発明は請求項に記載じた技術的要素の全部を実施したときに当該発明が実施されたと言い得るものですから(→権利一体の原則)、そこから抽出した上位概念を利用することを利用発明ということは妥当ではありません。
従って一般にそっくり説が広く採用されています。
②「利用発明とは、先行発明の特許要旨に新な技術的要素を加えたものをいうのであるから、利用発明は先行発明の特許要旨全部を含み、これをそっくり利用したものでなければならない。」〔昭和32(ヨ)1387号クロルプロマジン事件〕
③物の発明の特許では、要素A+Bからなる先願発明に対して、要素A+B+Cからなる後願発明の如くです。例えば新規のスポイトの発明に対してスポイトの先端側の吸い上げ筒部に蛇腹を設けて吸い上げ筒部の向きを調整できるようにしたものは利用発明として成立し得ます。
(イ)先願発明の要旨(要素A+B)をそっくり含まない発明は、改良発明ではあっても利用発明ではありません。→改良発明とは(利用発明との相違)
(ロ)もっとも先願発明の要旨(請求の範囲の記載事項)を“そっくり”含むと言っても、先願発明に対して均等の発明を排除する趣旨ではないと考えられます。(※1)
そもそも“利用発明”は特許権同士の抵触を裁定制度(特許法第92条)により調整するために導入された制度だからです。
④「化学方法の特許では、出発物質、化学手段、目的物質の三が特許要旨を構成しているのであるから、利用発明には、先行発明の右三要素がそつくり含まれていなければならない。」とされています。〔前記クロルプロマジン事件〕
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