体系 |
実体法 |
用語 |
“特許を受ける権利を有する者の行為に起因して”のケーススタディ(権利者編) |
意味 |
特許出願に係る発明の新規性喪失の例外の適用事由の一つである“特許を受ける権利を有する者の行為に起因して”の行為主体に関してケーススタディします。
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内容 |
①新規性喪失の例外の規定は、特許出願人である特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した場合に例外的に新規性を喪失しかったものと見做す規定です。
特許を受ける権利を有する者の行為に起因する行為には、平成23年前に規定されていた、試験を行うこと・刊行物に発表すること・所定学術団体に発表すること・所定博覧会に出品することが含まれます。
特許を受ける権利は、発明の完成により発生し、また譲渡性を有するため、行為の主体が誰かは当該特許出願について新規性の例外の適用することの是非の重要なポイントとなります。
②「特許を受ける権利を有する者」とは承継人を含むと解釈されます(※1)。
(a)すなわち、特許を受ける権利を有する発明者甲が発明を発表し、その後に特許を受ける権利を乙に譲渡し、新規性喪失の日から6月以内に乙が特許出願をする際に新規性喪失の例外を主張することができます。
(b)特許を受ける権利を有する発明者甲が特許を受ける権利を乙に譲渡し、乙が特許出願をした場合において、甲から乙への特許を受ける権利の譲渡の後で乙の特許出願の前に甲が乙に無断で発明を公開したときには、「行為に起因して」には該当しません。
その時点で甲は特許を受ける権利を有する者ではないからです。
しかしながら、甲の行為が乙の意に反して行われたことが証明できれば、特許法第30条第1項の「特許を受ける権利の意に反して」に該当します。特許を受ける権利の譲渡の日を証拠付ける資料を確保しておくことも必要でしょう。
③特許を受ける権利を有する者の行為と認定されるためには、行為の時点で発明が完成されている必要があります。
(a)従来から発明完成前の試験は「特許を受ける権利を有する者の行為」ではないので適用対象外と言われていました。
(b)その点に関しては、今回の改正でも変わっていないので、発明完成前の試験に関しては、慎重であるべきです。
④従来の規定では「試験を行い」の意味に関して、試験の性質上特許を受ける権利を有する者本人では行い得ないものである場合に、当該本人から依頼を受けた第三者の試験の実施も、“本人が行った試験”と含むと、学説上で解釈されていました(※2)。
(a)例えば建築用具の性能試験を行うに当たり、対外的に試験結果の信頼性を担保するために、第三者機関に試験を依頼することが必要とされているような場合です。
(b)平成27年の法改正後には、「特許を受ける権利を有する者の行為」(依頼)により試験を行って新規性を喪失する場合が適用対象となることに条文上明らかになりました。
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参考図書 |
(※1)…工業所有権逐条解説 (※2)…中山信弘編「注解特許法」
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