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①国内処理基準時が定められた趣旨
指定国に日本を含むとともに国際出願日に含む国際出願は、国際出願日にされた特許出願とみなされます(特許法第184条の3)。複数国を指定した国際出願は、国内出願の束と言われますが、指定した国の全てに対して特許出願人が権利化を希望しているとは限りません。出願した発明の価値を見極めた上で、自分により有利な形を整え、かつ実際に保護を求める国を絞り込み、無駄な出費が生じないように権利化を図ることが普通です。
従って、特許協力条約(PCT)は、国際段階の補正を行う機会(PCT19条)や国際予備審査を行う機会(PCT31条)を保障するとともに、優先日から所定の期間が経過するまでは、各国における国内手続の繰延べ(指定国の官庁-指定官庁-は優先日から所定の期間が満了するまでは国際出願の処理又は審査を行ってはならないこと)を定めています(PCT23条第1項)。
→国内手続の繰延べとは
但し、出願人の明示の請求があったときには、国際出願の処理又は審査をいつでも開始できることが定められています(同条第2項)。我国では、特許出願人が行った出願審査請求が上述の“明示の請求”に相当します。
こうした事情に基づいて、我国では、出願人が国内移行手続をできる段階と、特許庁が国際特許出願の処理又は審査ができる段階とを区別するために、「国内処理基準時」という概念が導入されました。
②国内処理基準時の概念
(イ)国内処理基準時は、国内移行手続の期間である国内書面提出期間の満了の時(但し、国内書面提出期間内に特許出願人から出願審査請求があったとき)には当該請求の時を、国内処理基準時と定めています。
(ロ)但し、国内書面提出期間内に特許法第184条の5の書面(発明者の氏名等の届出書)を提出することを条件として書面の提出日から2月以内に翻訳文特例期間が認められ、その場合には、翻訳文提出特例期間の満了の時が国内処理基準時となります。
(ハ)さらに、国内書面提出期間内に特許出願人が出願審査請求をしたときには、その請求の時が国内処理基準時となります。
なお、国内書面提出期間内には、たとえ特許出願人が国内移行に必要な書類の全てを特許庁に提出していても、第三者は出願審査請求をすることはできません。いまだ国内手続の繰り延べが解除されていないからです。
③国内処理基準時の意義
国内処理基準時の第1の意義は、それにより、国際段階が終了して、国際特許出願が手続的に確定することです。例えば特許出願人は、出願審査請求をした後に、翻訳文を再提出することができません。
国内処理基準時の第2の意義は、当該基準時後に国際特許出願の処理及び審査が可能となり、同時に各種の手続の期間の起算点となることです。
具体的なケースについては下記を参照して下さい。 →国内処理基準時後の特許出願の流れ
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