パテントに関する専門用語
  

 No:  522   

特許出願の要件/拡大された先願の地位・ケース1

 
体系 実体法
用語

拡大された先願の地位のケーススタディ1(未完成発明)

意味  拡大された先願の地位とは、先願である特許出願・実用新案登録出願の最初の明細書・特許請求の範囲・図面(「明細書等」という)の全体について、出願公開・特許掲載公報・実用新案掲載公報の発行前にされた後の特許出願等を排除する地位です(29条の2)。

 ここでは拡大された先願の地位が認められる条件としての先願発明の存在について、特に発明が未完成である旨の主張が争われた事例をケーススタディします。


内容 事例:

昭和57年(行ケ)第79号(磁石合金事件)

内容:

特許法第29条の2違反で拒絶された特許出願の審決取消請求事件(請求否認)

権利範囲:

先願の特許出願当初の請求の範囲に記載された発明は次の通りです。

「Co五~三五原子%、Cr三~四〇原子%、残部Feを主成分とする合金に、電子個数差がマイナス〇・五~二になるようにTi、V、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Ni、Cu、Zn、Geの一種または二種以上(ただし、Mo単体は除く。)を含有させて特性を改良した(BH)maxが八、〇〇〇TA/m以上の磁石合金。」

事例の概要:

 先願発明はFe―Cr―Co系合金に11個の元素の一種又は二種を配合してなる磁石合金に関するものであるが、選択肢の一つに関して一個の元素に関する実施例がなく、かつ全体として6例の実施例がないので、未完成であり、先願の地位がないという、特許出願人の主張が争われた事件

裁判所の判断

〔先願発明の開示の有無〕

 先願明細書の特許請求の範囲第一項の発明(以下「先願発明」という。)においては、Ti、V、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Ni、Cu、Geの一種または二種以上(ただし、Mo単体は除く。)が、Fe―Cr―Co系合金にその電子個数差がマイナス〇・五~二になるように配合されるものであることが認められるから、電子個数差は磁石合金の組成全体に関係を持つものであり、そして電子個数差を特定の範囲に限定することは、磁石合金の組成にある範囲の限定を加えることになることが明らかである。

 しかも先願の願書に最初に添付され図面(以下「図面」ともいう。)の第一図及び第三図によれば、電子個数差は磁気特性とも関係を有していることが一応認められるから、電子個数差は、所定の磁気特性を有するFe―Cr―Co系磁性合金を得る際における添加量の指標ともなっているものといわなければならない。

 したがつて、先願発明において原子個数差を「マイナス〇・五~二になるように」限定することは、少なくとも右の観点からしても、それなりに技術的意義を有しているということができる。

 先願明細書には、先願発明に対応して、発明の詳細な説明に、特許請求の範囲内の記載に含まれる合金について、その製造方法及び磁気特性の測定法が記載され、その図面第一図には、先願発明の記載の範囲に含まれる合金と、その範囲外にある合金について具体的な組成例及びその磁気特性が記載され、また第二図には、電子個数差と磁気エネルギー積との関係が図示されている。

 しかも、先願明細書の特許請求の範囲第一項の記載は、それ自体意味するところが明確であり、また、これに対応するべき、発明の詳細な説明及び図面の右各記載との間に技術的に矛盾するところは認められないし、そしてまた、特許請求の範囲第一項に記載の磁性合金を製造することが技術的に不可能であるとする特段の事情も認められない。

 したがつて、先願発明は、先願明細書に完成された発明として記載されているといわなければならない。

〔先願発明が未完成発明か否かについて〕

 なお原告は、先願明細書に開示されている実施例の数が少なすぎること、しかもその磁気特性も低レベルのものであるとして先願発明の未完成を主張する。

 前掲甲第三号証によれば、先願明細書及び図面には、なるほど、先願発明の実施例としては、第一図C、D、E、F、H及びIの六例が記載されているに過ぎず、必ずしも充分なものとはいえないけれども、Ta以外の添加元素についてはそれらを含んだ磁性合金が実施例として示され、かつその磁気性も記載されており、そして先願発明の出願時にその発明が完成されていなかつたことを証する根拠もないので、先願明細書及び図面に開示されている実施例の数が少ないからといつて、直ちに先願発明が完成されたものでないと断定することはできない。そしてまた、磁気特性についても、先願発明における(BH)maxすなわち最大エネルギー積八、〇〇〇TA/mという値が公知の磁性合金のそれに比して高いか低いかは別としても、先願発明は最大エネルギー積八、〇〇〇TA/m以上の磁性合金が対象となつているのであるから、その限りにおいて発明は完成しているといわなければらない。


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