今岡憲特許事務所マーク

トップボタン
 パテントに関する専門用語
  

 No:  527   

新規性進歩性審査基準/特許出願の要件/発明の要旨・ケース(例外)1

 
体系 実体法
用語

発明の要旨のケーススタディ(例外的事例1)

意味  発明の要旨とは、本来、特許出願の出願書類に開示された発明のうちで特許出願人が保護を求めている部分という意味であり、請求の範囲に記載した発明が該当します。

 ここでは新規性・進歩性審査基準に掲載された判例のうちで特許出願の明細書の発明の詳細な説明に記載された用語(ブラケット)の意義が参酌された事例をケーススタディします。


内容 紹介事例:

平成6年(行ケ)78号

事件の種類:

審決取消請求事件(無効審判・不成立)→審決取消

発明の名称:

自走式オーガ装置(特許第1615559号)

発明の内容:

〔技術分野〕

自走車体に削孔機を取付けた自走式オーガ装置に関するものであり、土木作業分野に広く利用されるものです。

〔目的〕

従来の装置では、ブーム、アーム及びリンク機構の三者の動きを同時に制御しなければならないので、操作がむずかしく、操作に熟練を要するという問題などを解決することです。

〔構成〕

「第1の油圧シリンダ装置3によって俯仰されるブーム4と、ブーム4先端に軸支され、第2の油圧シリンダ装置5によって俯仰されるアーム6と、アーム6の先端に軸支され、第3の油圧シリンダ装置7によって四節リンクを介して俯仰される、アーム6より短かいブラケット8とから成る可動腕機構を、自走車体に対して旋回可能且つ俯仰可能に配設し、可動腕機構のブラケット8から削孔機9を1点軸支で揺動自在に垂下した自走式オーガ装置。」

〔審決の判断〕

(イ)請求人は、本件発明が特許法第29条第2項違反であるとする根拠として次のように述べている。

“明細書の記載において、ブラケット8の構成が特にアーム6を基準にして長さのみを限定することにより言い表されていることからみて、本件発明にいうブラケットとは、アームと同類のものであって、その長さがアームより短い部材というほどのものに解することができるから、(引用文献の)符号6の部分より短いアーム状の部材である甲第9号証における符号8の部分は、本件発明にいうブラケットに相当するものであるとみることができる”。

(ロ)しかし、「ブラケット」とは、一般に、フレームや機械本体から突出していて、軸、てこなどを支える目的に用いられる部分、または部品をいい、腕木、腕金ともいうものであって(「機械用語辞典」機械用語辞典編集委員会編 株式会社コロナ社・昭和54年7月25日7版発行 47頁右欄8行ないし12行参照)、本件発明における「ブラケット」もその明細書及び図面の記載をみると例外であるとは認められない。

〔裁判所の判断〕

(a)明細書の技術用語は学術用語を用いること、用語はその有する普通の意味で使用することとされているから(特許法施行規則24条、様式29備考7、8)、明細書の技術用語を理解ないし解釈するについて、辞典類等における定義あるいは説明を参考にすることも勿論必要ではあるが、それのみによって上記理解ないし解釈を得ようとするのは相当でなく、まず、当該明細書又は図面の記載に基づいて、そこで用いられている技術用語の意味あるいは内容を理解ないし解釈すべきであることはもとより当然のことである。

(b)本件の明細書には次の記載がある。

(イ)本発明は、第三の油圧シリンダ装置7とブラケット8を設けているもので、このブラケット8は、アーム6に比して短かいので、その傾動量に対する削孔機9の平面位置移動量が比較的小さく、前記削孔機9に加わる外力吸収のための調整をとりやすいものである。

(ロ)アーム6の先端には、アーム6に比して十分短かいブラケット8をピン19によって枢着し、このブラケット8の先端には、削孔機9をピン20によって1点軸支で揺動自在に垂下した。

(c)以上の記載から、本件発明では、ブーム4及びアーム6は比較的長寸であるので、比較的小さな傾動量でも、削孔機9の平面位置の移動量が大きく、調整をとりにくいが、ブラケット8は、アーム6に比して短いので、その傾動量に対する削孔機9の平面位置移動量が比較的小さく、削孔機9に加わる外力吸収のための調整をとりやすいという差異が存するものと認められる。

(d)(本件発明の)ブラケット8が、フレームや機械本体から突出していて、軸、てこなどを支える目的に用いられる部分であるとは認め難く、上記(1)の辞典類において定義づけられているような技術的意味ないし内容を有するものとは認められない。

(e)従って、本件発明におけるブラケット8について、上記甲第23号証に定義づけられているようなものであって、ブーム4とアーム6は本体であり、ブラケット8はこの本体に突出して設けられた部品であるとした審決の認定は誤りというべきである。


コメント  いわゆるリパーゼ判決は、“請求の範囲の記載が一義的に明確に理解できないとか、誤記であることが詳細な説明から明瞭である”などの別段の事情がない限り請求の範囲の通りに解釈するべきであると述べています。

 しかしながら、“請求の範囲の記載が一義的に明確”ということの意味は、単に請求の範囲に記載された用語に辞書類で記載された定義(通常の意味)を当てはめて理解できる、ということではありません。上記判決の趣旨は、請求の範囲に記載された上位概念(リパーゼ)を勝手に明細書に記載された下位概念(Raリパーゼ)に限定解釈してはならないということだからです。


次ページ

※ 不明な点、分かりづらい点がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。


 

パテントに関する専門用語一覧へ戻る




今岡憲特許事務所 : 〒164-0003 東京都中野区東中野3-1-4 タカトウビル 2F
TEL:03-3369-0190 FAX:03-3369-0191 

お問い合わせ

営業時間:平日9:00〜17:20
今岡憲特許事務所TOPページ |  はじめに |  特許について |  判例紹介 |  事務所概要 | 減免制度 |  リンク |  無料相談  


Copyright (c) 2014 今岡特許事務所 All Rights Reserved.