体系 |
実体法 |
用語 |
引用発明の内容中の示唆のケーススタディ1(物の選択) |
意味 |
進歩性の判断では特許出願の請求の範囲記載の発明の一部の発明特定事項に対する示唆が当該発明に至る有力な根拠とされる場合があります。ここでは進歩性審査基準のうち発明特定事項である物の選択に結びつく示唆の事例を取り出してケーススタディします。
|
内容 |
①事例:「水溶性鉛塩類を含有する電着浴」事件(昭和61年(行ケ) 240)
②事件の種類:拒絶審決請求取消事件(否認)
③特許出願の請求の範囲に記載された発明
「陽イオン性可電着性樹脂の水性分散液を含有する電着浴に鉛分が浴全量に基づいて100から3000ppmとなる量の水浴性鉛化合物を添加することを特徴とする改良さとれた電着浴。」
③特許出願に係る発明に至る示唆の内容
(イ)引用例には、陽イオン性でしかも化学的前処理が不必要な水性電着浴を得るという本件特許出願に係る発明と同様の目的に適する金属イオンとして、電位列中の電位が鉄の電位よりも高いという条件を挙げていた。
(ロ)また条件に適合する7種の金属イオンが例示されていた。
(ハ)特許出願に係る発明の特定構成である鉛イオンは電位列中の電位が鉄の電位よりも高いことは周知の事実であるから、鉛イオンを用いることは引用例に示唆されている。
④原告(特許出願人)の主張
(引用文献中に)「カチオンの電位列中の電位が鉄の電位より高く、かつ本発明の被覆浴に適する適当なイオンは例えば…」と記載されているように、引用例において「適当なイオン」として認識されているものは、単にカチオンの電位列中の電位が鉄の電位より高いのみでは足りず、その中にさらに適当なイオンの存在することを明記しているのである。
例示されたイオンの中には、本願発明の鉛イオンは存在しない。
従って、該当箇所の記載から引用例に鉛イオンが「適当な」イオンとして含まれているとする根拠はない。
⑤コメント
引用発明の内容中の示唆(電位列中の電位が鉄の電位より高い)が特許出願に係る発明に至る示唆として足りず、さらに適当なものを探し当てなければならないという特許出願人の主張が事実であるとしても、金属の電位列は周知のことであり、元素に限ると選択肢の数もかなり絞られます。
従って引用発明の内容中の示唆が請求の範囲の発明に至るに足りないという特許出願人の主張は認められ難いと考えられます。
|
留意点 |
/進歩性-発明特定事項(物)に対する示唆の説明図
海水中における金属の自然電位列 腐食側 -1.50 マグネシウム -1.03 亜鉛 -0.94 アルミ
-0.70 カドミウム -0.61 鋳鉄
-0.61 炭素鋼 -0.50 鉛
-0.46 二レジスト鋳鉄
-0.45 半田(50/50) -0.42 すず -0.36 銅 -0.25 キュブロニケル -0.20 ニケル
-0.17 インコネル -0.13 銀 -0.10 チタン(高純度) -0.08 ハステイロCh
-0.08 モネル +0.25 黒鉛 +0.26 白金 防食側
|