体系 |
実体法 |
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引用発明の内容中の示唆のケーススタディ2(位置の選択) |
意味 |
進歩性の判断では特許出願の請求の範囲記載の発明の一部の発明特定事項に対する示唆が当該発明に至る有力な根拠とされる場合があります。ここでは進歩性審査基準のうち発明特定事項である位置の選択に結びつく示唆の事例を取り出してケーススタディします。
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内容 |
@事例:「光学的明色化剤及びその製造方法」事件(昭和51年(行ケ)第19号)
A事件の種類:拒絶審決請求取消事件(否認)
B主引用例(特許出願公告昭和31年第3536号)に記載された発明
(a)一般式
(式中Aは、1・2・3―トリアゾール核の窒素原子に対し、隣接せるα、β―位置に於て結合せるナフタリン基にして、Bはベンゾール系の基である。)で表わされる化合物を螢光漂白剤として使用したもの。
(b)またスチルベンのベンゼン核に結合している塩素原子の結合位置が引用例では2―位又は4―位である実施例、及び、置換基を有しない実施例も記載されている。
(c)さらに引用発明には、
「(上述の)Xによって表わされるエチレン結合に対する共鳴位置の1個所又は殊に数個所にアルコキシル基、アシルアミノ基、1・3・5―トリアジニルアミノ基の様に之れを強力に活性化する置換基(以下、強力に活性化する置換基という)を含有せしむればそれ自体の色は増強せられ又其螢光性色調は好しくない緑の方に片寄る様になる。」こと、
「故に……X(2―位・4―位・6―位)にはこれ等(強力に活性化する置換基)、は存在しないようにせねばならない。」こと、
「此等の基(強力に活性化する置換基)はベンゾール核Bのその他の位置(3―位・5―位)にある場合には光学的影響(螢光増白作用に及ぼす影響)を余り呈しない故斯る位置には所望によって存在せしめてもよい。」こと
が記載されている。
C特許出願の請求の範囲に記載された発明
引用文献の化合物の構成のうちスチレン誘導体の塩素の結合位置を2―位又は4―位の代わりに3―位としたもの(用途:光学的明色化剤)
D特許出願の請求の範囲の発明に至るための示唆の内容
引用文献には、
本願発明を包含する一般式を有する化合物について「ベンゾール核Bの置換基及びその置換位置は……螢光の色合に重大な影響を有する」ものでこと、
「ベンゾール核Bにハロゲン原子……の様な極僅かに活性化する置換基を含有する或は含有せざる化合物が好しとするもベンゾール核Bに置換基なき化合物は此等が工業的に容易に入手可能なることと光学的理由とによって特に好しく……最も価値あるものである。」ことが旨記載されており、
その反面、ベンゾール核Bにハロゲン原子を含有する場合におけるその置換位置についてはこれを特定の位置に限定する趣旨の記載がないことが認められる。
E裁判所の趣旨の
これらの認定事実によれば、引用例においては、いずれの置換位置でハロゲン原子を含有する化合物であっても、これらは明色化剤として好ましい化合物に属するものとして、その一般式においてベンゾール核Bにハロゲン原子を含有する化合物のなかに含まれるとしていることが明らかであり、本願発明の3―位ハロゲン体(具体的には3―位クロル体)が、引用例に実施例としてあげられた2―位クロル体および4―位クロル体と化学構造上置換位置しか相違しないことを考慮すると、本願発明で使用する3―位ハロゲン体は、引用例に示唆されているものであつて、事業者であれば同じく明色化剤として使用価値あることが容易に予測できるものであるといわねばならない。
Eコメント
本事例では、構造aに関しては記載があるが構造bに関して記載がないという事実を以て特許出願に係る発明に想到するための示唆と認定していることに着目されます。もちろん裁判所はその点だけ評価したのではなく、引用文献全体を考慮していると考えられます。
下の参考図に示すように、
化学構造(スチレン)の塩素原子の置換位置の選択肢は、周知・有限であること、
本件特許出願の発明特定事項(3−位クロル体)をはさむように引用例の実施例(2―位クロル体および4―位クロル体)が存在していたこと
を総合すると、示唆に関する裁判所の判断は妥当と考えます。 |
留意点 |
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