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@presumed to have knownの意義
(a)米国特許出願の非自明性の基本的な考え方を示すグラハムテストでは、テストの一行程として、当業者、すなわち当該技術分野における通常の知識“ordinary skill in the art”のうちスキルを確定すべきことを定めています。
(b)これをうけて米国特許商標庁のMEPE(日本で言えば進歩性審査基準にあたるもの)では当業者について次のように定めています。
“The person of ordinary skill in the art is a hypothetical person who is presumed to have known the relevant art at the time of the invention.”
(c)すなわち創作の基礎となり得る関連する技術を全て知っていたと推定される人物です。
(d)“推定される”とした理由は、特に複数の先行技術を組み合わせるときに各先行技術を当業者が知っていたことを推定しないと裁判上で非自明性の証明がとても困難になるからです。
(e)“推定される”の用語は、一般には反論があれば覆るのですが、いわゆる当業者は仮想の人物であるので、当該分野で働いている現実の人物を取り上げて、彼が知っていないと反論しても意味はありません。
(f)この点を説諭した判例として807 F.2d 955 (CUSTOM ACCESSORIES, INC., v.JEFFREY–ALLAN INDUSTRIES, INC.,)があります。
“The person of ordinary skill is a hypothetical person who is presumed to be aware of all the pertinent prior art. The actual inventor's skill is not determinative.”
当業者は、関連する全ての技術を知っていると推定される仮想の人物である。現実の発明者のスキルは決定的なものではない。
Apresumed to have knownの意義
(a)グラハムテストでは、各事件毎に、当業者のスキルのレベルを定めるべきことを定めることを定めています。当該特許出願の事情に応じてスキルのレベルを調整することで、ハインドサイトが生ずることを防ぐためです。
(b)上述の807 F.2d 955ではスキルを定めるための要素を挙げています。
・type of problems encountered in art(当該分野が遭遇する問題の種類)
問題の解決が長く未解決の問題であれば、隣接技術にそれを解決できる技術が存在しても、当時の当業者のレベルではそれを組み合わせることが自明でないと判断される可能性があります。
→249 F. Supp.823「梳綿機」事件
・rapidity with which innovations are made(技術革新の速度)
ある技術分野での技術革新の速度が著しい場合には、技術分野の全体で知られているとは言い難い場合があります。
・sophistication of the technology(技術の洗練の程度)
・educational level of active workers in the field(実際の働き手の教育の程度)
例えば働き手が大学教育を受けて専門性が高められている分野と、そうした教育がない伝統的な技術分野とでは事情が異なることに考慮するべきです。上述の「梳綿機」事件では、発明当時の梳綿機の操作者のレベルが問題になりました。
B日本の進歩性審査基準でも次のように述べています。
“技術常識とは、当業者に一般的に知られている技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいう。”
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