体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
十分に類似(sufficiently similar)とは(先例拘束性の原理) |
意味 |
「十分に類似」(sufficiently similar)とは、先例拘束性の原理に用いられる用語であって、上級裁判所の先例の判断を後の裁判に当てはめるべき事案の範囲をいいます。
|
内容 |
@先例拘束性の原理は、欧米法の概念であり、裁判所は、事案が十分に類似した事例の上級裁判例に拘束されるという原則です。米国では英国程に厳格ではないにせよ、本原理が法体系の基本になっています。
A“Sufficiently similar”(十分に類似)な事例とは、”cases with similar issues or facts”(論点又は事実が類似するケース)という程度の意味です。
(a)いわゆるコモンローは、類似の事実からは類似の結果を生ずるということを重視するからです。
(b)また上級審が既に取り扱った論点に関する判断に下級裁判所が従うことにより、一般人が予め判例の結果を予期し易くなります。
B米国特許出願の要件に関しても、最高裁判所は実務の基礎となる多くの判例を示しました。
(a)Hotchkiss v. Greenwood事件(52 U.S. 248;1850)では、陶器製のノブの発明に対する特許は無効であると判断しました。ノブは新規ではなく、陶器も新しくないからです。これにより、例えば“公知の物”の“公知の材料変更”に過ぎない発明に特許出願が行われたときには、上記事件と“sufficiently similar”な事案であるために、特許性を認めないという判例が成立しました。
(b)この判例は、進歩性(非自明性)の規定の制定の基礎となりました。
C進歩性は、米国特許出願の要件のうちで最も判断が難しい問題であり、最高裁判所或いはCAFC(連邦巡回控訴裁判所)は多くの判例を示しました。これらはそれぞれ下級審の判断を拘束します。
(a)これらの判例のうち主だったものは、○○テストという形をとります(グラハムテスト、TSMテストなど)。
(b)これは、論点の結論を拘束する代わりに、結論を導く判断の手順を定めて、この点で下級審を拘束することで、判例の予測可能性を担保しているものと考えられます。
(c)例えば発明品の商業的成功は非自明性(進歩性)の判断に考慮しなさい、考慮した上で発明が自明であると判断しても構わない、という具合です。
→先例拘束性の原理のケーススタディ1
(d)発明の技術的な価値を評価する作業は、個々の事案により状況が千差万別であり、柔軟な判断が必要とされるからです。
|
留意点 |
|