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 パテントに関する専門用語
  

 No:  627   

先例拘束性の原理/ケース1/特許出願の要件(外国)/進歩性
/後知恵

 
体系 外国の特許法・特許制度
用語

先例拘束性の原理のケーススタディ1

意味  ここでは先例拘束性の原理の適用例をケーススタディします。


内容 @先例拘束性の意義

  先例拘束性の原理(doctrine of binding precedents)とは、英米法での概念であって、裁判所は、十分に事案が類似した事例の上位の裁判所の裁判例に拘束されるという原則です。

A事例1〜2

 いわゆるグラハム判決で商業的な成功などの2次的な考察は進歩性(非自明性)の判断に利用できるとした判断が後の事件に引用されたケースを示します。

(A)クック事件(グラハム判決で審理された事件の一つ)

[事件番号]383 U.S.1-(II)

[判決言い渡し日]1966年2月21日

[発明の名称]押下げ用キャップ付きのポンプ式スプレー

[判例の要点]
 特許出願に係る発明或いは特許発明の進歩性(非自明性)の判断に関して基本的事実の問いかけ(テスト)を示します。

@先行技術の範囲及び内容(scope and content)を決定すること。

A先行技術と請求項との相違点を確認すること。

B関連する技術(pertinent art)における当業者のレベルを定めること。

 商業的な成功・長期間望まれていながら解決しなかった課題・他人の失敗の如き2次的成功は考慮することができます。

(Such secondary considerations as commercial success, long felt but unsolved needs, failure of others, etc., might be utilized to give light to the circumstances)

(B)STRATOFLEX Inc., v. AEROQUIP Corporation事件

[事件番号]713 F2d 1530

[判決言い渡し日]1983年7月25日

[発明の名称]チューブ状押出成形品

[判例の要点]

@(進歩性判断で考慮するべき)先行技術の範囲は、特定の問題に合理的に関連するかどうかです。発明の適用対象である素材の特異であることが特定の問題と関係なければ、その特異性の有無の相違を以て引用文献の適格性を否定することはできません。

Aいわゆる2次的考察が主張されたとき、裁判所は常にこれを考慮する必要があります。

[本件へのあてはめ]

@本件発明者が直面した問題は、“炭化水素燃料の流れに起因するPTFE製チューブにおける静電気の蓄積を防止し、かつ当該燃料の漏れを回避すること”です。PTFEの特異な属性はこの問題の性質を変化させるものではないから、PTFE製ホースを対象とする本件発明に対してゴム製のホースの先行発明は合理的な関連性を有します。

A商業的成功という2次的考察は、進歩性の判断が微妙なときにのみ判断するべきものではなく、その点において下級審の判断は誤りです(但し最終的な結論には影響なし)。

(C)コメント

(a)チューブ状押出成形品事件の第一審の裁判官は、商業的成功の証拠が提出されたにも関わらず、これを審理せずに進歩性を否定する結論に至りました。

(b)その理由は、2次的考察というものは判断が微妙なケースで考慮すれば足り、本件の如く発明が自明であることが明確な場合には考察するに足りないと考えたからです。

(c)グラハム判決は、“Such secondary considerations…might be utilized to give light to the circumstances.”と述べており、“may be”(〜できる)という言葉からは第一審の裁判官の言い分も一理あるように思えます。

(d)しかしながら、第2審の裁判官は、“It is jurisprudentially inappropriate to disregard any relevant evidence on any issue in any case, patent cases included.”(特許のケースであるにせよそうでないにせよ、論点に関連するいかなる証拠も、これを無視することは裁判として正しくない)と指摘しました。

(e)もともとグラハム判決自体、一見したところこれは駄目(進歩性がない)だろうと思うような事例において裁判官が後知恵の罠(ハインドサイト)に陥ることを回避するための指針です。技術的観点のみからの考察では、後知恵に陥るおそれが特に大きいのです。

(f)だからこそ、“十分に類似した事案では先例に従え”という先例拘束性の原理に従えば、特許出願人又は権利者の発明が一見して駄目だと思えるような事例でこそ、商業的な成功などの2次的考察を考察に入れることが裁判の進め方として大切なのです。
十分に類似(sufficiently similar)とは(先例拘束性の原理)


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