内容 |
①権利の濫用の成立要件の趣旨
(a)民法1条3項は、「権利の濫用は、これを許さない。」と規定していますが、具体的にどういう権利の行使が濫用となるのかという点に明らかでないため、権利の種類や権利行使の態様などを考慮して個別具体的に判断することになります。
(b)権利の濫用の成立は、客観的の事情のみでも判断することができます。
他人への加害目的などの主観的事情は必ずしも必要ありません。主観的事情を重視して当事者の心情を探索するのは容易ではないからです。
(c)具体的には、権利の行使者と相手方との間での客観的な利益の比較衡量により判断するのが通常です。
例えば、他人の土地の下を無断で掘って発電所用水路を作った場合、土地所有者は、不法行為による損害賠償を請求できるに留まり、工事撤去原状回復を請求できないと判示された例があります(大判昭11・7・10)。
②特許権と権利の濫用の成立要件との関係
特許権の濫用が認められた事例は少ないですが、その一つの事例がいわゆるキルビー判決です。この判決から特許権と濫用の成立要件との関係を考察します。
(a)権利の種類との関係
特許権は、特許出願の発明の創作的価値(新規性・進歩性等)を前提として、特許出願人が新規な発明を公開する代償として付与される権利です。従って、上記判決では、新規性・進歩性を欠落しており、無効であることが明らかな特許権の行使が濫用と判断されました。
無効事由が存在することが明白であると裁判所が確信できる程度の心証が得られることが必要です。事例では、分割出願の要件を欠いており、特許出願日の遡及効が失われるので、無効理由が存在することが明らかであると判断されました。
(b)権利行使の態様
特許権は、独占排他権であり、権利の濫用として主に問題になるのは、他人の発明に対する差止請求権や損害賠償請求権の行使です。
本来、新規性・進歩性を具備しない発明であるのに、他人の発明の実施を妨げるのは、産業の発達を阻害すると考えられるからです。
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